さやさやと細いものが何本も揺れて、それがさっき窓の外に生えていた草だと気づいた。淡いグリーンの茎。先についた鈴のような形のもの。廊下だと思っていたのに、気がつくとあたり一面にその草が広がっている。
外に出てしまったのか、と思ったとき、目が覚めた。
はじめてその夢を見たときは、たしかそんな流れだった。そのときからくりかえし、俺はその夢を見ている。草と広い屋敷の夢だ。
目覚めるのはいつも決まってあの部屋だ。そこで女性に会い、チョコを渡される。それを一粒食べると扉があらわれる。俺は女性にあいさつして廊下に出る。
最初のときはそこで草原に出て、目が覚めてしまった。
だが、次のときは別の部屋にはいることができた。そこはなぜか学校の教室のような場所で、だれもいない。机やロッカーのなかを見ているとだれかがやってくる。小学校高学年くらいの男子で、探し物をしていることを話すといっしょに探してくれた。
だがその部屋にもぴんとくるものがなく、部屋を出るとそこは草原だった。家だったはずの建物のなかになぜ教室があるのか。目が覚めてから不思議に思ったが、夢なんてそんなものなのかもしれない、と納得していた。
次に見たときは、最初の部屋を出たあと、前と同じ扉を開けたつもりだったのに、まったくちがう場所に出た。古い子ども部屋のような場所だった。玩具や絵本がところ狭しと置かれていて、部屋の奥から小さな子どもがやってきた。その子も探し物を手伝ってくれたが、やはり探し物は見つからず、なにを探しているのかも思い出せないままだった。
同じ扉を通っても、いつもたいていちがう部屋に行った。だが、最初の部屋でチョコを選ぶときに前と同じものを選んだら、同じ部屋に出た。あらわれたのは別の人だったけれど、部屋は同じだ。そのとき、これまでは無意識にちがうチョコを選んでいたのだと気づいた。
あの女性が出してくるチョコが行き先を決めているのかもしれない、と思い、チョコと部屋の関係を記憶しようと試みた。だが、チョコの箱は二段になっていて何十種類もあり、常に同じものがはいっているともかぎらなかった。だから、もう一度同じ部屋に行きたいと願っても、それが叶うわけでもないのだった。
2025.07.02(水)