「そのティーセットはミントンのもので、コーヒーカップはウェッジウッドよ」
うしろから声がして、ふりかえると高齢の小さな女性がにこにこ笑っている。いきなりあらわれたのでぎょっとしたが、なぜか気持ちがゆるんで、そうですか、と返していた。
「バラの柄のティーセットはロイヤルアルバートのオールドカントリーローズよ。きれいでしょう?」
女性はうれしそうにそう言う。たしかにカップに描かれたバラはうつくしい。赤やピンクの花と緑の葉。縁は金で、高級そうだった。
「年号のはいったお皿はロイヤルコペンハーゲンのイヤープレートよ。むかしは毎年クリスマスに買っていたの。毎年絵が変わるでしょう? それが楽しくて」
雪のなかで犬ぞりに乗った子ども。白鳥のいる湖。雪の降る街をながめている二人づれや、風車の前でスケートをする人々。聖歌隊や蒸気機関車。白地の皿に青で描かれた冬の風景は、絵本の絵のようだった。
女性のうしろを見ると、部屋の中央には大きな楕円型のテーブルがある。テーブルも天板に幾何学模様が描かれ、猫脚というのだったか、脚の先がくるんと丸まっている。壁際にはヨーロッパ風の小机や棚があり、その上にステンドガラスのシェードのついたランプや、磁器の人形や小物が置かれていた。
きっとこの女性の趣味なんだろう。家具も食器もどれもヨーロッパ風だ。でも、そこまでごてごてはしていない。良いバランスで整えられている。
この人にとっては家のなかをうつくしく整えることがとても重要なことなんだろう、と思った。自分のためなのか、家族のためなのか、この家を訪れる客に見せるためなのか。そのすべてかもしれない。ここにいる人がしあわせな気持ちになれる、自分も家族も来客も。それがこの人の望みなのだろう。
「チョコレートよ、食べる?」
女性が楕円の大きなテーブルから箱を持ってくる。金で模様が箔押しされた蓋を開けると、なかにチョコレートの粒がならんでいる。ひとつずつ色も形もちがっていて、凝った作りだ。
2025.07.02(水)