アフタヌーンティーと言うくらいだから、コーヒーはこの空間では粗雑に扱われるものなのだろうと有馬は思っていたのだが、サイフォンから丁寧に注がれたので驚いた。香りも、良い。「いただきます」と、口へ運んだ。きっと、これが良い味なのだろう、と有馬は思った。
「よく来るんですか、アフタヌーンティー」
ジンはすぐには答えなかった。ハーブティーをポットからカップへ注ぎ終えてから「まあね」と笑う。
「愛李くんの方はどうだい」
「あんまり」
「意外だな。女の子が来たがったりしそうだけれど」
「同伴とかに、喜ばれる気はしますね。俺は使ったことないですけど。アフターの時間に、アフタヌーンティーって名乗ってるとこあって、行ったことがあります。これにのってるのが肉寿司とかでしたけど」
有馬はケーキスタンドを指さす。
「そんなんばっかだから、食べたことがあるのは偽物のやつだけ、ですね」
「偽物。じゃあ、これは本物なんだ」
「そうだと思います」
ケーキスタンドの段一つ一つが、会話を楽しみながら目と舌で味わうためにコーディネートされていることが伝わってくる。特別に派手ではないし、もちろん量があるわけではない。花をそえることに尽力されている。ミルクプディング、苺とルバーブのタルト、苺のサンドイッチ、スコーン、適当に切り分けたわけではなく、元々このサイズを目指して作られたことが見て取れる一口サイズのスイーツやセイボリーたちだ。有馬が聞いたことのない料理も混ざっていた。苺と生ハムとオリーブが串刺しになっているが、果たして合うのだろうか。未知の世界だ。
「面白いね」
何がですか、と言いそうになった。反発してるように聞こえてしまいそうだと気づいて止める。だが、表情に出ていたらしい。ジンは薄く笑いながら続けた。
「愛李くんとして、つまりはホストとしての君以外が、アフタヌーンティーに行くところが想像できないんだ、と思ってね」
有馬の手が空中で止まる。それで固まってしまうのは間抜けに思えて、コーヒーカップの取っ手に指を当てた。
2025.06.24(火)