撮影はまだコロナ禍だった
――撮影を思い出して、今でもよく覚えているエピソードはありますか?
アンソニー 当時はまだコロナ禍だったので、毎朝、検査のために棒を鼻の中に突っ込まれたことです(笑)。あとはGDHのチームがとにかく素晴らしかったので、共演者はもちろんですが、スタッフの皆さんも懐かしいですね。
ピシットポン 僕はロケ地の学校がすごく印象に残っています。バンコクにある高校でしたが、本当にきれいなところで、見たこともないほど校舎が大きかった(笑)。短い期間ながら、学生生活をもう一度過ごせたような気分でした。なんだか異世界に入り込んだみたいでしたね。
ワークショップで心の壁がなくなっていった
――映画を観て、おふたりの空気感が素晴らしいと思いました。ペーとジョーを演じるため、お互いにどのような準備をしましたか?
アンソニー 最初にジャンプ(ピシットポン)とのワークショップをしたんです。たとえば、お互いの腕をつかんで体重をかけ合い、手を離すか離さないか……とか。
ピシットポン そこでお互いの関係を自然に作れたので、心の壁がなくなっていったんです。トニー(アンソニー)のことを弟のように思えたからこそ、心を開けたし、思いやりを持てたし、ポジティブなエネルギーも生まれた。それが演技にもいい影響を与えたんだと思います。
最初に撮ったのは、ペーが転校してきた初対面のシーン
――ペーとジョーの共演シーンはまとめて撮影したのでしょうか?
ピシットポン トニーとのシーンは1~2ヶ月くらいかけて撮りました。学校での撮影も多かったので、毎日のように顔を合わせるなかで、だんだんトニーや監督のことがわかっていきましたね。
アンソニー ふたりのシーンがほとんど順撮りだったのはラッキーでした。最初に撮ったのはペーが転校してきた初対面のシーンで、撮影の終盤にラスト近くを撮影したんです。ペーとジョーが仲良くなる過程と、実際の僕たちの関係がリンクしていました。

――アンソニーさんは、一緒に映画を制作する仲間たちとの共演シーンも多いですよね。
アンソニー みんなで短編映画を撮るシーンは一番楽しかったです。若者らしいケミストリーが求められていたので、のびのびと思いっきり演じて、新しい友達ができたような感じ。ジョーの代役をしていたピン役のフルーク(タナコーン・ティヤノン)、録音担当だったブーム役のフジ(ジラパット・シワコシット)とは今でも仲がいいんですよ。

ピシットポン とても楽しくてかわいらしいシーンですよね。初めて映画を観たときはちょっと寂しかったですよ、僕も参加したかった(笑)。
2025.06.22(日)
文=稲垣貴俊
通訳=高杉美和