この記事の連載
僕にとって猫は「人間がそんなに気楽には生きられないということを教えてくれる」

――どういうことですか?
数字って面白くて。10回から20回くらいの間で、ぐーっと喉が鳴り出すんですよね。なでる箇所も、奥さんとか子供がなでない前脚の付け根とか耳の根っことかをなでたりして、2人とは違うアプローチで愛猫家としてのアイデンティティを保持してます。好きなところはどこなんだろうと触診する感覚で、なでてますね。……こんな感じですけど、マロンのことは大好きですよ? ただ、猫がいるから生きていけるとか、猫がいるから癒されるとかは思わないようにしてます。

――小さい頃、飼っていた犬との距離感はどうだったんですか。
それは……後悔しかないですね。飼いたいって言ったのは、僕だったんです。姉ちゃんと兄ちゃんも飼いたいって言ってくれて、親が飼うことを許してくれたんですけど、僕がまったくお世話をしないから、結局、静岡の親戚に引き取ってもらうことになりました。……本当に申し訳ないことをしました。散歩に行く素振りを見せると、いつもなら玄関に行って出たいっていう反応を見せるのに、預ける当日は全然動かなくて。その姿を見た瞬間、俺のせいだって後悔が襲ってきて……あの時のことが忘れられない。トラウマになってますね。
――何歳くらいのことですか?
小学校5年生くらい。預けた家にも犬がいて……老衰で亡くなったというのを聞いたんですけど、あの時の後悔が大きいから、自分からペットを飼おうという発想が浮かばなかったんだと思います。
――後悔があるから、マロンちゃんと近づきすぎない距離を保っているのかもしれないですね。今4歳ですが、今後について考えることはありますか? 一緒に年を重ねていくわけじゃないですか。
老後については、奥さんとも話をしています。こういう機会はありがたいです。取材してもらうことによって、改めて考えられますから。みんな、健康でいないとですね。

――では、純さんにとって、マロンちゃんはどんな存在ですか?
一言で表すのは難しいですけど、実感としては生活を見直せる存在。人間は衣食住の3つが必要ですけど、猫を見てるとその3つについて考えられるというか。猫みたいな生活ができたらとか、猫みたいに気楽に生きたいとかよく言うじゃないですか。猫は、人間がそんなに気楽には生きられないということを教えてくれる。だから、生活する上で鑑みたいな存在でもあるのかもしれない。濁っているものがより濁らないように。そこに立ち戻らせてくれる存在ですね。
――チューニングしてもらってるんですね。
そうかもしれない。人間だから欲もあるし、善意も悪意もある。けど、マロンを見ていると生命ってこれでいいんだと思えるんです。そこから、家族や仲間、社会とどう向き合うのがいいんだろうと考えていく。旦那として、飼い主として、芸人として……みたいなものの上での業を、マロンがいることによって知ることができているところはあります。
――ある意味、ただ「かわいいかわいい」と言っている人よりも、純さんのほうが愛猫家かもしれないですね。
そう言ってもらえるのはありがたいです。けど、マロンのお世話はほとんど奥さんがしてくれているっていう……。僕がラッキーなポジションであることは忘れないでください(笑)。
純(じゅん)
1981年1月14日生まれ、東京都出身。2003年に池田一真と共にお笑いコンビ「しずる」を結成。「爆笑レッドカーペット」や「爆笑レッドシアター」(ともにフジテレビ系)などで人気を博す。2025年4月にSNSで「村上純」からの改名を発表して話題となった。
X @shizzlemurakami
Instagram @murakami_jung

Column
お笑い芸人の“うちの子”紹介
今をときめくお笑い芸人たちが愛すべきペットとの生活を語ります。飼い始めたきっかけやその子のチャームポイント、可愛い! と思う瞬間や彼らとの暮らしのなかで気づいたことなど、たっぷり語ってもらいました。しゃべれども、しゃべれども、ペットへの愛は尽きないようです。
2025.07.06(日)
文=高本亜紀
撮影=釜谷洋史
写真=純(しずる)