「ノイズ」を取り去って完璧を目指す

――最近のう大さんには、審査員としての顔も加わりましたね。
審査員としてはまだ全然自信がないというか、「なんであいつが審査員なんてやってるんだ」と思っている人も相当いるだろうなと思いますよ。
――う大さんが審査員を務める「キングオブう大」(ABEMA『しくじり先生 俺みたいになるな!!』の名物賞レース企画。「キングオブコント」ファイナリストやセミファイナリストがコントを披露、う大一人が審査して順位を決める)では、的確な講評と具体的な提案をされている印象ですが。
僕でなくてもできるアドバイスもあるでしょうし、僕はたまたま演劇もやっているから「こう演じたほうがいい」というアイディアが出せる部分もあるんです。案外初歩的な部分をないがしろにしている芸人もいるから、そこで僕が渡せるものがあるならなるべく渡したい。お笑いにどんどん進化していってほしいですからね。自分が好きなものを出していけば、未来のお笑いが少しでも自分の好きなものに近づくかもしれませんし。

――審査の言葉を通じても感じることですが、う大さんが作る笑いは、細かいところまで神経が行き届いている感じがします。登場するキャラクターが本当にいそうな、語尾ひとつとっても「これしかない」というものが選び取られているような。どうやってあれだけ精度の高いコントを作り出しているんでしょう?
僕は「ノイズ」と呼んでいますけど、ちょっとした違和感、「滞っているな」という部分を、わりと敏感に感じ取ってしまうタイプで。コントって生物に近くて、一度通してやってみると「ここは血が滞っているな」「ここに不調があるな」というところが必ずある。それを直していくんです。本当に身体みたいに、ある箇所が滞っている原因がもっと手前に存在する場合もあったりする。それをひとつずつつぶしていく。違和感を放置しちゃうと、お客さんに悟られたくないという思いで全力が出せなくなるんですよ。たとえばアスリートの人は、フィールドに石があるとわかっていたら全力でプレイできないじゃないですか。最初から最後まで自分が超ノリノリでやれるのが最高の状態なので、そのためにすべてを整えておくんです。
――全力でコントを演じるために。
もちろん、どれだけ準備しても本番は緊張もするし、お客さんとの相性もあるし、運頼みな部分はあります。でも、脚本においては完璧な状態にすることは理論上可能じゃないですか。その精度を上げることは自分が頑張れる部分だから、とにかく最良を目指します。といっても、その「最良」は感覚によるものだから、やるたびに「こっちのほうがいいかも」と行ったり来たりもするんですけどね。
役者業はまさに「難しすぎる世界」

――自作だけでなく、他の人が書いた作品に役者として出演することもありますよね? 普段ご自分の脚本やセリフにそれだけ精度高く向き合っているう大さんは、どんなマインドで役者業に取り組んでいますか?
笑いをとるシーンに対しては自信もあるし、役を通じて作品の助けになればいいなと思ってやっています。その場でしゃべっているように見えるのが一番いいので、「う大はどこまで台本でやっているんだろう」という状態になることをゴールとして設けています。ただ、どうしてもセリフが気になっちゃう時があるんですよ。「ここは主語省いたほうがいいのに」「この単語言わないほうがいいのに」とか思ってしまう。ミニマムなセリフで伝わるのがいちばん気持ちいいから。自分の舞台だと気づいたらどんどん変えていくし、外の現場でそれを受け入れてくれるところも多いです。でも中には「一言一句変えないでほしい」という場面もある。そういうときは「これ絶対言わないほうがいいのにな」と思いながら言うという悲しい時間があります。これは僕が作り手や演出をやっている弊害ですよね。そんなこと気づかなければ全力で言えたかもしれないのに。……「難しすぎる世界」ですよ、まさに。
岩崎う大(いわさき・うだい)
1978年9月18日生まれ。東京都出身。2006年に槙尾ユウスケと「劇団イワサキマキヲ」を結成し、2010年にコンビ名を「かもめんたる」に改名。その後「キングオブコント2013」で優勝。2015年には「劇団かもめんたる」を旗揚げ。2020年と2021年に2年連続で岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネートされる。現在も芸人、劇作家、脚本家、演出家、漫画家などとして多岐にわたり活動を続けている。

かもめんたる岩崎う大のお笑いクロニクル 難しすぎる世界が僕を鬼才と呼ぶ
定価 1,760円(税込)
扶桑社
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ゲストの方に気になる話題を語っていただくインタビューコーナーです。
(タイトルイラスト=STOMACHACHE.)
2025.06.13(金)
文=釣木文恵
撮影=佐藤 亘