「楽しんで作る」という新たな方法への挑戦

――『難しすぎる世界が~』全編を通じて、う大さんはストイックに笑いと向き合い、もがいている様子が窺えます。ところが一転、最後に「楽しく笑っての創作を目指す」と宣言されていますよね。
あの終わり方は自分でも全く予想だにしていませんでした。芸人として表現していると、どの現場もどのコントも次のための修行みたいな感覚があるんですよ。そうやって作り続けていくうちに、限界ギリギリの戦いになっていくんです。100メートル走だってそうじゃないですか、0.0何秒の戦いで、いきなり8秒台走る人は出てこない。僕もそんな限界を感じていくなかで、「楽しんで作る」をやってみたら、この状況を変える可能性があるのかもしれないと思ったんです。もしかしたら違う競技になってしまうかもしれないけど、人を驚かせるような結果を生む可能性もあると思っていて。
――これまで、自分に厳しく作ってきたからこその転換。

そう。自分に限らず、周りに対しても厳しくはできない時代じゃないですか。追い込んで作品を作るなんて、許されることではない。でもそのせいで前の時代よりお笑いという表現のクオリティが下がるとは思いたくないですよね。だとしたら、「楽しむ」をやってみて、新しいものが生まれるかを試してみようと。……どんな時代に生まれたかというのは、つくづく大事なことだと思うんですよ。ほんの10年生まれる時代が違っただけで、芸人の表現なんて全然違う。だったら、今の時代に生きているからやれることをやるしかない。僕自身がやりたいことはもちろんあるけれども、それだけでは成り立たなくて、時代や社会からのいろんな制約や要請があるからこそ一歩踏み出せる。自分たちの前にもうやった人がいるとか、コンプライアンスが厳しくなってきたとか、そういう状況の中で何ができるかが大事だと思うんです。
まさか自分が寒空の下で漫才で戦うとは

――作り方が変わることで、また新たなう大さんの作品が観られそうですね。う大さんは時折、思いがけない活動をされる印象があります。かもめんたるが「キングオブコント」で優勝した頃には、まさか劇団を作るとも、ラストイヤー付近になってお二人がM-1に挑戦するとも思いもしませんでした。
僕もそうですよ。数年前、あるドラマの現場でマキタスポーツさんと「昨日の『M-1』面白かったですね」と話しながら、少し寂しい気持ちも感じていたんです。まさかその数年後に自分が寒空の下で漫才で戦うとは思っていませんでした。そもそも、芸人がコントで煮詰まったとき、「劇団を作ろう」とはならないでしょう。普通は漫才をやるほうが先じゃないですか。でも、もしあのとき劇団より先に漫才に手を出していたら、きっと今の形にはなっていなかった。そういう分野が、もしかしたら自分の中にまだ埋まっているのかもしれないと思うんです。
2025.06.13(金)
文=釣木文恵
撮影=佐藤 亘