この作品は監督自身の体験からきていた

 一方監督のコラリー・ファルジャは、本作の発想についてこう語る。

「この作品は私自身の体験からきているんです。幼いころから女性はこの世界で生きていくうえで、外見で評価されるという意識がずっとありました。1作目の長編映画『リベンジ REVENGE』(17年)を制作した後で、次作はそうした思いを据えたものにしたいと考えていました。

 また、当時40代になり、女性としての価値を失ったような喪失感にさいなまれ、自分が社会から透明になったみたいな気持ちがありました。いやそれは違うんだという葛藤もあり、そうした思いを作品にしたかったのです」

見る者の想像を越えた形で変貌する

 前半はエリザベスのキャリアと私生活を追う。年齢のせいで社会の枠の外へと押し出されていく過程を、じわじわと押し寄せる不安や恐怖や焦燥感とともに見せていく。そして「サブスタンス」に出会い摂取することにより、とんでもない状況に自らを追い込む。それが次第に切迫感と強迫感へと変わっていくのだ。そして、フェミニスト的心理ドラマと思っていた筋書きは、後半で劇的な変化を見せる。いつしか「サブスタンス」に頼り、自分をコントロールできなくなったエリザベスは、見る者の想像を越えた形で変貌する。その視覚表現はショッキングで、驚くべき大胆なシーンを呈し、映画は心理ドラマから、ホラー映画のジャンルへと突入するのだ。

 デミとマーガレットという二人の美しい俳優がここまで演じたことに驚く。

100%この作品に没入して演じていた

 違和感はなかったのですか? と尋ねてみた。

「私たちふたりとも最初から100%この作品に没入していましたから。もちろん不安と違和感もありましたけど(笑)」

 とマーガレット。デミも、

「マーガレットにまったく賛成(笑)。この役を演じるには自身のすべてを投げ出すしか方法はなかったからです。エリザベスのもろさ、それをとてつもないレベルで表現するのが本作のカギで、感情的にも身体的にもそれに徹底することが重要でした。それを達成するためには、自身のすべてを込める演技が必要とされ、マーガレットと共にそれを達成することが重要でした」

2025.05.23(金)
文=高野裕子