「よりよい自分を夢見たことはありますか?」。もし「完璧な」の分身を手に入れるとしたら、あなたはどうするだろう……。

 そう問いかける映画『サブスタンス』(日本公開中)は、奇抜なヒット作だ。外見・若さ至上主義の芸能界で50歳になった瞬間に解雇されてしまった元スター女優が、若く美しい分身を生む秘薬に手を染め、もう一度成功を目指して暴走していく……。

時流に見事に合致した「ルッキズム・ホラー」

 舞台はハリウッドでありながらフランスで制作されたグロテスクなホラー映画で、いわば「ゲテモノ」的な怪しさに包まれている。しかし、海外で公開されると、推定4,500万人のSNSユーザーのあいだで口コミが爆発。7,700万ドル(約113億円)以上もの興行収入を記録した

 ルッキズム・ホラーとも言える『サブスタンス』は、時流とみごとに合致した衝撃作だった。登場する秘薬は、美容整形を彷彿とさせることはもちろん、現在「魔法の減量薬」として流行中の糖尿病治療薬マンジャロやオゼンピックにも似ている。SNSを通して一般人も容姿をジャッジされたり、他人と自分を比較して不安になってしまったりすることが増えた今、女性を中心に共感を集めた映画であることはまちがいない。

 主演は、あのデミ・ムーア。1990年代の全盛期には「人気はあるが演技力はない」と評価されることもあったハリウッドスターだが、今回、60代にして美と若さに取り憑かれる様を怪演。これが「命がけの演技」として称賛を集め、ゴールデングローブ賞や全米俳優組合賞を受賞。さらに、キャリア初のアカデミー賞ノミネートを果たす復活劇の契機となった。

 話題になったのは、デミ自身が「役を地で行く」と言われる地獄を経験してきた存在であることだ。

2025.05.17(土)
文=辰巳JUNK