エリザベスという役も恐れずにこなせた背景

 デミとの話し合いについても明かしてくれた。

「実際に会いエリザベスというキャラクターについて、また内容の生々しさや視覚的な表現やそのリスクについても説明しました。にもかかわらず、彼女はリスクを承知したうえでこの役を体験したいと言ってくれました。

 彼女の自伝を読み、彼女の人生はとても過酷な旅だったということも知りました。彼女は男性社会の中を必死に舵取りをしながら生きてきたのです。時代の先端を歩み、革新的な選択もしてきました。だからこそ、エリザベスという役も恐れずにこなすことができるだろうと思ったのです」

INTRODUCTION
美貌と人気で注目を集めていた元女優が、自らを再生するために禁断の「サブスタンス」に手を染め、若さと美しさを兼ね備えた自分を作り出す。主演のデミ・ムーアは肉体への執着を圧倒的怪演で見せつけた。本作での再評価を受け、アメリカでは「デミッセンス」(デミ・ムーアのルネッサンス)という造語がメディアを賑わしているほどだ。共演のマーガレット・クアリーは、弾けるような若さでデミに対峙し、再生した女性を見事に演じる。監督と脚本を手掛けたのはコラリー・ファルジャ。美への執着と、成功への渇望がせめぎ合い、やがて狂気が侵食していくラストシーンは圧巻。2025年アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞受賞。

 

STORY
50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベスは、容姿の衰えから仕事が減少し、ある再生医療「サブスタンス」に手を出す。注射するやいなや、エリザベスの背を破って現れたのはスー。若さと美貌に加え、エリザベスの経験を持つスーはたちまちスターダムを駆け上がっていく。一つの精神をシェアするふたりには「一週間ごとに入れ替わらなければならない」という絶対的なルールがあった。しかし、スーが次第にルールを破りはじめ……。

 

STAFF & CAST
​監督・脚本:コラリー・ファルジャ/出演:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド/2024年/アメリカ/142分/配給:ギャガ/©The Match Factory
 

「私はこの仕事を45年以上も続けてきましたが、賞をいただいたのは初めてです。大金を稼ぐ映画には出られるけれど認められることはない、私はそれを受け入れてしまったのです。それが時を経て私を蝕みもうこれで終わりかもしれないと思ったどん底にいた時、とてつもない脚本が舞い込んできたのです。宇宙が私に『あなたはまだ終わっていない』と告げたのです」(デミ・ムーアのゴールデン・グローブ賞主演女優賞受賞コメントの一部)

2025.05.23(金)
文=高野裕子