バイオレンスやホラーのジャンルは男性的と思われがち

 南仏カンヌで撮影されたという架空のハリウッドは極度にスタイル化され、ある意味グラフィック・ノベルか写真作品のようなシンプルさと美しさを放っている。この映像作りも見事だ。また、バイオレンスやホラーのジャンルは男性的ジャンルと思われがちだ。それを女性監督が独自のスタイルで消化し、男性の世界観を女性の視点をとおして描き、笑いを誘う場面もある。

 ファルジャ監督は語る。

「このジャンルはほとんど男性監督の独壇場みたいな状況でした。それはいまだ社会に男性はどうあるべき、女性はどうあるべきというような従来からの役割的な考え方が変わらず存在するからだと思います。女の子なら人形遊び、男の子なら拳銃遊びをするみたいな単純な常識がいまだにまかり通っていますよね。そんな常識の上に様々な文化がなりたってきたと思います。私の場合、男性向けとされる映画を観て育ちました。SFやアクション、ホラーが好きで観ていて楽しいし自由を感じていました。そういった個人的なパーソナリティーや嗜好が、自然に自分の映画作りのスタイルになったのではないでしょうか。映画に登場する男性の視点は、私自身の経験を通して語っています。実体験を映画言語に置き換えるという作業はとても重要だと思います。それが本作でやりたかったことなのです」

強力なキャストの起用がとても重要だった

 デミとマーガレットという強力なキャストが本作を成功に導いたのは間違いない。

「可能な限りのインパクトを出すために、強力なキャストの起用はとても重要でした。自らの経験を反映させた演技ができることも。でもまさかデミがひきうけてくれるとは思っていませんでした。これまでの出演作から考えても、本作のテーマに向き合うことに躊躇するのは当然だったからです。ところが彼女が脚本を読み、この役に興味があると言ってきたときはすごく驚くと同時に、これで面白くなると思いました。デミはアイコニックな女優としてのイメージがあり、それはこの映画のテーマと結びつくものがあるからです」

2025.05.23(金)
文=高野裕子