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黒田剛さんインタビュー
黒田剛さん 極上映画7選

「効率化」が正義とされるこの時代に、“あえて非効率”を貫くPRパーソンがいます。それが書籍PRの黒田剛さん、その人です。
『妻のトリセツ』や『続・窓ぎわのトットちゃん』(ともに講談社刊)など数々のベストセラーを手掛け、なかには50万部を超えるヒットを記録した書籍も。「1万人に広く伝える」よりまず「1人に深く伝える」を重視する黒田さんの仕事術は、合理化とは対極にあるように見えて、実は誰よりも本質的で戦略的です。
関係性を丁寧に育て、“人に選ばれる”ための「非効率」の哲学について、お話を伺いました。
非効率は「人と人の関係」を耕す手段

――書籍PRという仕事の中で、“非効率”を大切にされているのは意外でした。
黒田 自分では「効率悪い」とは思っていないんですけどね。僕が大事にしているのは、「人と人の関係」なんです。メール1通にしても、定型文では送らずに、相手に合わせた一言を添えるようにする。自分が参加する必要のない取材や打ち合わせにも立ち会う。そうやって、「この人と仕事したい」と思ってもらえる関係を作っていく。そんなふうに仕事をしていることが、人からは非効率に見えるみたいで。こうすることが結果を生んでいるので、自分としては効率がいいつもりなんです。
――その積み重ねが、ベストセラーを生んでいるんですね。
黒田 そうだとしたらうれしいです。実際、PRって話術や資料の作り方だけじゃないと思うんですよ。“人として付き合いたいかどうか”が、すごく大きい。だから僕は、仕事でもプライベートでも、人との距離の取り方をあまり変えてないんです。

――仕事とプライベートを切り分けないという考え方は、正直、なかなかハードルが高いように感じます。
黒田 僕も昔は「オンオフをしっかり分けなきゃ」と思ってたんです。でも、ある時、プライベートで絶対に言わないようなことを、仕事だからって言っている自分に違和感があって。そこからは、「全部、人と人の関係なんだから、無理に分けなくていいじゃん」って思うようになりました。
――相手と誠実に関わる姿勢があるからこそ、自然と関係が築かれていくんですね。
黒田 そうですね。自分がされて嫌なことは相手にもやらないし、嬉しかったことはちゃんと伝える。これって小学校で教わるようなことかもしれませんが、僕はどんな相手でも“人と人”として接したいんです。
――嬉しかったこともちゃんと伝える。大事なことだけれど、意識しないとできていないかもしれません。
黒田 自分の中で決めているのは、思ったときにすぐ言うことですね。後で言おうと思っても忘れるし、伝え方もぎこちなくなるので(笑)。だから、「◯◯さんとお会いできて嬉しいです」とか、「◯◯をしてくださって、嬉しかったです」とか。自分なんかが伝えなくてもいいかもと躊躇してしまいがちですが、まずは自分から心を開くようにしています。
2025.05.05(月)
文=船橋麻貴
写真=橋本 篤