デビュー作『音叉』第2作『秘める恋、守る愛』篇

編集者の方々を巻き込んでの「髙見澤俊彦作品はココが面白い」トーク、前半は『特撮家族』でヒートアップしたが、髙見澤さんのデビュー作は2018年の『音叉』、第2弾は2020年の『秘める恋、守る愛』である。こちらも聞かねばなるまい。
「デビュー作の『音叉』が青春小説で、ご自身の体験に近いものでした。毎回違うものを書いていきたいということで、2作目の『秘める恋、守る愛』は、恋愛小説。この作品は、家族小説という側面もありますね」(担当Hさん)
『音叉』は確かにTHE ALFEEの軌跡と重なる部分も多い。彼らが青春を送った高度成長期の東京が舞台。刺激的な洋楽に心震わせ、学生運動に揺れた、バンド「ジュブナイル」のデビューまでの道のりが描かれている。読めばTHE ALFEEだけでなく、1970年代そのものに興味が湧く。あの時代特有の疾走感と熱っぽさがブワッサーッと襲いくる!
『秘める恋、守る愛』は、髙見澤式ドイツロマンチック紀行。長く連れ添った夫婦が、ドイツに留学した娘を迎えにドイツに行くのだが、それぞれの過去と想いが交錯するのである。描かれるドイツの風景も美しいが、私がさすがと思ったのは、「メリーアン」を作った方だけあり、登場する女性陣の色気が文章からムンムン伝わること! それだけではない。出てくるドイツ料理が全部おいしそう。食いしん坊は読むべきである。クーッ、ボイルドビーフ、白わさびで食べたい。本場のドイツビール飲みたーい! 恋愛と食とは相性がいい、とこの小説を読んで気づかされる。
「単行本にまとめる際、『音叉』の時は、手を入れることはほとんどなかったんですけど、『秘める恋、守る愛』は、連載ではひとまとまりに繋がっていた物語を、7日間の旅ということで、1日ごとに章を分けるという再構成を行いました」
とHさんが話してくれたエピソードも興味深い。私は文庫版しか読んでいないが、連載バージョンも読んでみたい。この物語、二度おいしい気がする!
連載中! 『イモータル・ブレイン』篇
現在、『オール讀物』で連載されている『イモータル・ブレイン』は、歴史大作。ある一人の男が実は、日本史を大きく左右した、さまざまな暗殺事件の記憶を持ったまま転生を繰り返す――という壮大な話である。舞台は、戦国の世と令和を行き来する。悪魔召喚まで出てきて、「確かに、日本史のあの事件って、人間の行動の範疇を超えたところがあるよね」というツボをガッツリ突いてくるのだ。
Mさんが「クリストファー・ノーランっぽいですよね」と言う。確かに確かに!
「毎回、難しいことにチャレンジしようという気迫がすごいですね。ことに『イモータル・ブレイン』は、歴史小説とSF、両方の難しさがあり、すごく丁寧に執筆されているようです。髙見澤さんは、修正をされるたび、原稿のファイル名の数字を更新されていくのですが、『イモータル・ブレイン』は最初、冒頭部分を見せていただいた時に『原稿17』だったのが、完成稿になった時点では『原稿71』になっていました」(担当Iさん)
ななな71! あの忙しさで、それだけ直す時間がどこにあるのだろう。しかもすごい修正エピソードは、原稿だけではなかった。
「小説とは別に、髙見澤さんは、『神様について語ろう』という対談コラムも連載されているのですが、実はこれ、昨年の4月、締め切りまでにどうしても小説が書けないとギブアップの連絡が来たことで始まったコラムなんです。その時『ページに穴が空いたら申し訳ないから』と、神田明神禰宜の岸川雅範さんとの対談をやりましょうと髙見澤さんからご提案をいただいた。そんな作家さん、まずいないですよね。コンサートなどでは先々の予定がきっちり決まっていて、しかも大勢のスタッフの皆さんとお仕事をされているから、『迷惑をかけないように』と、代替案を考える習慣がついているのかもと、そんなことを思いました」(担当Iさん)
さすがのリスクマネジメント……!
2025.04.16(水)
文=田中 稲