――おお、何かいい感じに。

古舘 僕も大人になって、仕事で視野が広がって、ようやく父親の凄さが分かるようになった。父親も、僕に対していろんな言葉をかけてくれるようになって。心から尊敬しているし、今ではもうめっちゃ仲良しです。

――良かったですねえ。

古舘 父親は、僕にはとてもじゃないけど出来ないようなことをたくさんやってきたんだし、そもそも父親の歩いてきた道を僕が歩く必要はない。僕は僕で、やらなきゃいけないことも、歩かなきゃならない道もあるはずだし。それがようやく分かったんですね。

――古舘伊知郎さんはテレビのバラエティ番組をはじめ、ラジオやご自身のYouTubeチャンネル、「古舘伊知郎 トーキングブルース」といった公演など、現在も第一線でご活躍中です。特に、ライフワークとも言える「トーキングブルース」シリーズは、時事への風刺やユーモアが溢れている上に、長いお経を丸暗記で諳んじたり、膨大な薬の名前を列挙したりと、毎回途方もないボキャブラリーを駆使したトーク一本勝負で。

古舘 直近の公演を観たんですが、喋りに対する魂の注ぎ込み方が尋常じゃなかった。でも、僕のなかでの父親は、多弁とか器用とは無縁なイメージで。僕からしたら、父親ほど口下手な人はいないと思っているくらいなので、本当に見えないところで並々ならぬ努力を重ねてきたんだろうなあと思います。そう言えば、最近、友達から、「こないだお父さんの本を読んだけど、文章、めっちゃお前と似てたよ」と言われて。僕、実はまだ父親の本を読んだことがないから分からないんですが、「テンポ感とか、一旦、自分を卑下するとことか、よく似てる」と言われ、不思議な気持ちになったなあ。そろそろ読んでみようかなと思いました。

「一言で語るのはものすごく難しいんですけど……立川談志さんみたいな人というか」

――きっといろんな発見があるでしょうね。さて、次は古舘さんにとって重要なもうひとりのイチロウさん、つまりサカナクションの山口一郎さんについて伺いたいのですが。古舘さんが今回上梓した初著書には、山口さんが深く関わっているわけですが……。

古舘 はい。あ、すみません。一郎さんの話の前に、ちょっとトイレ行ってきていいですか?

――あれ、何だか急に表情に緊張の色が(笑)。古舘さんにとって、山口さんとはどういう存在なのでしょうか?

古舘 一言で語るのはものすごく難しいんですけど……立川談志さんみたいな人というか。

撮影 杉山秀樹/文藝春秋

「お前、カトマンズに行ってこい」潔癖症で旅嫌いの古舘佑太郎(34)がサカナクション・山口一郎に無理矢理アジアに送られて見た“予想外の結末”〉へ続く

カトマンズに飛ばされて 旅嫌いな僕のアジア10カ国激闘日記

定価 1,980円(税込)
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2025.04.24(木)
文=内田正樹