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◆絶品の料理と、雪化粧の温泉に癒やされる

 6品目は魚料理。炭火で皮目だけを炙ったブリを、色も食感も異なる大根の下に忍ばせた「ブリ大根」は、テーブルを華やかにするひと皿です。

「大根は火入れしたものと生のものを使い分け。火入れしているほうは、乾燥させた甘みのある大根を揚げてから炊いています。それだけだと味が少しぼやけるので、歯触りがよく辛みのある生の大根で全体を引き締めています」

 「ブリ大根」には、カーブドッチのどうぶつシリーズ「いっかく(オレンジ)」をペアリング。ケルナーとソーヴィニョン・ブランからつくられたオレンジワインです。ケルナーのトロリとしたようなマスカット香とソーヴィニョンブランの生姜っぽいニュアンスが交じり合った爽やかな味わいで、魚料理とも好相性。

 続いて、チーズのような香りを漂わせて運ばれてきたのが「干々」。こちらは、乾燥させて保存しておいた素材を使った3種の珍味の盛り合わせになります。

「干し肉は、この地域のジビエをハーブに漬けて干したもの。今回は猪肉です。中央の干し芋と干し柿は、白子のぬか漬けを間に挟んで揚げたものになります」

 秋の里山でたくさんとれるキノコは瓶詰め保存のほか、乾燥させて保存している種類も多いそう。香り高い和製ポルチーニ、ヤマドリダケもそのひとつ。3つ目の珍味は、乾燥ヤマドリダケを戻して寄せた煮こごりです。妙高市「笹ヶ峰牧場」の山でのびのび育った「短角牛」のジュレで炊いて固めた煮こごりは、舌触りなめらかな旨みの塊。

 メインディッシュとなるのは、ジビエ料理「猪」。地元の八海山麓で狩猟の猪の肉をローストし、冬野菜とともにいただきます。

「猟師の駒形さんが届けてくれた、八海山で仕留めた猪の肉のローストです。これに合わせている野菜は、雪の中の白菜を軽く干して炭火で焼いたものと、黒大根を薄くスライスしたもの。山椒の実もアクセントに加えています」

 ペアリングはカーブドッチの個性派の赤、どうぶつシリーズ「おうむ(ツヴァイゲルト)」。口当たりはやわらかく、豊かな果実味、じわりと広がる深みのある旨みにうっとり。

 コースは土鍋で炊いたご飯のあと、デザートで締めくくります。

 寒い冬は、温かい部屋で楽しみたい柑橘類。コースの締めは、新潟産のみかんを用いたデザートです。みかんは比較的温暖な佐渡だけでなく、地元でも少し出回るそう。

 爽やかな酸味のみかんは、焼くことでトロッとジューシーになり、甘みが引き立ちます。その上に乗せたミルクのアイスクリームが何とも軽やか。今回のデザートにも長岡市の「加勢牧場」で育てるガンジー牛のゴールデンミルクを使っています。

 冬の「里山十帖」は、滋味深い発酵食と保存食づくし。単なる郷土料理ではなく、モダンで新たな彩りを添えた自然の恵みをいただきました。「発酵食は、豪雪地域で生きるための知恵の結晶だと思います。春も秋も仕込みは本当に大変ですが、雪国の伝統文化を学んで受け継ぎ、さらに進化させていきたいですね」と笑顔で話す桑木野シェフ。

 季節によってコースの主役は変わりますが、それもまた「里山十帖」の魅力のひとつ。次回は、いよいよ春の山菜を求めてお邪魔する予定です。

里山十帖

所在地 新潟県南魚沼市大沢1209-6
電話番号 0570-001-810
部屋数 13室
料金 1室2名利用1名2食付 32,395円~
http://www.satoyama-jujo.com/

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2025.04.12(土)
文=大嶋律子
写真=鈴木七絵