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 山菜やジビエといった山の幸や日本海で獲れる海の幸など、豊かな自然が育む食材に恵まれるガストロノミーの地、新潟。伝統的な金物や木工などの美しい器に盛られた心躍るようなひと皿は、新潟の魅力をまるごと体感させてくれる。

 今回の旅の目的、夏の「新潟ガストロノミー」を堪能するため、南魚沼の「里山十帖」へ。


夏はカラフルな野菜やフルーツ、そして鮎料理が主役

 世界的なレストランガイド『ミシュランガイド』『ゴ・エ・ミヨ』『Best Vegetables Restaurants』に掲載され、国内外の食通たちから熱い注目を集める「里山十帖」。二十四節気七十二候に沿った旬の食材を主役にしたコース料理に腕を振るうのは、桑木野恵子料理長です。

 心がけているのは、「地に根差した料理」。食材は、自家栽培のハーブはもちろん、料理長自ら生産者のもとへ足を運んだり、山で収穫したり。新潟の食文化を地元の人たちから学ぶことも多いそう。

 使用する食材は、そのほとんどが新潟の伝統野菜や南魚沼をはじめとした新潟県産のもの。

 さらに、これまでは目を向けられてこなかった食材や、捨てられがちな端材にも注目し、「ローカル・ガストロノミー」をコンセプトに独創的な一期一会の料理に仕立てる。それが、桑木野シェフにしか生み出せない、「野生」が目覚める料理です。

 コースの幕開けを飾るのは「トウモロコシ」。薄張りグラスでいただく、ひんやりと冷たいスイートコーンのスープです。

 ひと口だけで、その甘みの濃さにびっくり! けれど、それがとても自然な甘さなのです。

 使用しているのは朝採れの「鬼もろこし」。トウモロコシは夜のうちに実のひと粒ひと粒に養分をたくわえるため、朝日が昇りはじめる前に収穫するととりわけ甘さが際立つのだそうです。

 米どころにして酒どころでもある新潟の日本酒や自然派ワインとのペアリングも、ここでの楽しみのひとつ。桑木野シェフが「トウモロコシ」にセレクトしたのは、新潟市にあるワイナリー、カーブドッチの「ファンピー オレンジ泡 2023」。

「気軽にいただけるカーブドッチのスパークリングワインで、夏にぴったりの爽やかさが魅力です。ネーミング通り、飲むと一気に楽しくハッピーな気分になりますよ。乾杯にぜひ!」

 「里山十帖」の料理は、野菜の色、香り、食感が力強く元気。スパイスやハーブの合わせ方にもオリジナリティを感じます。フレッシュさにこだわり、敷地内で育てた多種多様なハーブが料理を美しく仕上げます。

 2品目は、長岡市の7代目土田十兵衛さんから直送される「本当の梨ナス」や、加茂市の「いりえくだもの園」の朝採り桃を使ったひと皿。清涼感のあるバジルの香りに気持ちも華やぎ、希少なガンジー牛を育てる「加勢牧場」のゴールデンミルクでつくったリコッタチーズもすっきりとした後味です。

「水キムチのようにたくさんの野菜とハーブを乳酸発酵させたスープをかけ回しています。酸味もあって、夏バテ予防にもすごくいいですよ」

 ペアリングは新潟市のワイナリー、レスカルゴの自然派ワイン「ソーヴィニヨン ブラン2022」。エレガントな酸味と深みある口当たりにうっとり。

 次なる料理は、甘みがあって煮崩れしない特徴をもつ「中島巾着ナス」。こちらの生産者も7代目土田重兵衛さんで、「中島巾着ナス」の伝統を100年以上守り続けているナス農家さんです。トマトときゅうりのジュースでつくったエキスで「中島巾着ナス」をじっくりと炊いて、丁寧に擦った胡麻ミルクと合わせ、かぐら南蛮とニラの花で彩った逸品です。

 夏はきゅうりなどの野菜が大量に届き、その使い道を考えるのが悩ましくも楽しい時間だという桑木野シェフ。

「きゅうりはぎゅっと搾ったジュースをゆっくり煮詰めるとシロップになるんですよ。トマトもクリアなトマトウォーターを煮詰めています。水飴のようになったものにさらにトマトウォーターを混ぜてナスを炊く。だからこの料理にはきゅうりとトマトが何百と使われていることになります」

 「里山十帖」の夏の風物詩ともいえるのが「鮎そば」。この時期を目当てに訪れる常連も多いそう。

「鮎を高温のオーブンで骨まで焼いてから潰してペースト状にし、それと米粉の麺を混ぜています」

 骨も肝も全部使っているため、ペーストは苦味があって濃厚。その味わいを引き立てる米麺は「人田畑」という新潟の農家集団のものを使っています。

 7月初旬に鮎の友釣りが解禁される魚野川。水がきれいな清流にしか生息せず、とれたての鮎は「スイカの香り」がするともよくいわれます。そんな「鮎そば」のペアリングには、ジンとスイカの果汁のみでつくった「スイカのカクテル」が登場!

2024.09.14(土)
文=大嶋律子
写真=鈴木七絵