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毎朝たっぷり届けられる食材は無駄にせずフル活用

 焼くということは最も原始的な調理法で、つくり手の絶妙な火加減による焦げまでが美味と芳香を生むといわれます。「里山十帖」のマゴチの炭火焼きも、ぷりっとした歯ごたえと香ばしい焦げ感が楽しめる焼き加減。これは日本酒が進みます。

 仕上げの出汁は、冷製スープで使ったトウモロコシの芯や搾りカスまで活用して煮詰めたもの。どんな食材も無駄なく使うという桑木野シェフの思いが表れています。

「コチには根もずくを合わせていますが、海藻とトウモロコシの相性がめちゃめちゃいいんです。先日、海藻とトウモロコシのヒゲを合わせた料理をお出ししたら、こちらも好評でした」

 ごはんものとして出されるのは、蓮の葉でおこわを包んだ「泥と蓮」。

「しょうゆで炊いたおこわに金時豆が入る郷土料理『しょうゆおこわ』をアレンジしたメニューです。長岡に伝わる『しょうゆおこわ』は、花火や親戚が集まるときに必ず食卓に並ぶもの。金時豆を蓮の実に代え、さらに蓮の葉で包んで蒸して蓮の香りを移しています」

 『しょうゆおこわ』は長岡市とその近隣のみで食されており、この地域で育った人にとっては赤飯といえばこのしょうゆ味のものを指すのだそう。

 「泥と蓮」はおこわの蒸物だけでなく、天然どじょうの揚げ物もペアになった料理。どじょうも毎年パターンを変えて出している夏の名物だそうです。「ただ、メニューを見た瞬間に『ちょっと…』とためらう方も多いので、名前を『泥と蓮』にしました」と桑木野シェフ。今年はシンプルな素揚げでしたが、過去にはイタリア料理から着想して炭火で焼いたり、蒲焼きにしたりしたこともあったそうです。

 メインディッシュともいえる「夏野菜」はオクラ、鬼灯、かぐら南蛮、きゅうり、青ナスといった野菜が、夏キノコのアカヤマドリや黄金豚の炭火焼きとともに盛りつけられたひと皿。どの野菜も絶妙な歯ごたえに調理されており、一晩寝かせたというガスパチョのようなトマトのソースとのバランスも見事です。

「豚肉は、胎内市のブランド豚・越乃黄金豚を選びました。肉質がやわらかくコクのある赤身がおいしい豚肉です。素材の味を引き出すため、調理は炭火で焼いて塩を振るだけにしています」

 炭焼きに使用している「白炭」ともまた味わいに一役買っているそう。

「もう、アロマのようないい香りがするんです! 魚沼の炭焼職人、橘福二さんのつくる白炭は、魔法のように肉も魚もおいしくしてくれます」

 コースはデザート「雪国マンゴー」で締めくくります。地元、南魚沼育ちの「ゆきぐに温泉マンゴー『魚沼の妖精』」はとびきり甘く、その糖度は18度以上。軽やかでさっぱりした自家製クリームといっしょにいただきながら、コースの余韻に浸りましょう。

「温泉熱を利用してつくった環境に優しいエコマンゴーを使いました。ご近所さんなので、青いうちのマンゴーをいただけば漬物にしますし、マンゴーは酵素が強く、お肉をマリネするときにも大活躍。使い道がいっぱいあります」

 新潟にはまだまだ知られていない魅力的な食材があり、素晴らしい生産者がいるということ。そして、それらをつなぐシェフの真摯な姿勢がひと皿ひと皿に宿っています。

 清々しく、鮮烈の爽やかさがある「里山十帖」の夏の食体験はいかがでしたか。移ろいゆく季節。魚沼に広がる田んぼでは稲穂が黄金色に変わり、稲刈りのシーズンを迎えます。また、野山では多種多様なキノコが顔を出します。

「秋は夏とはまったく異なるキノコがとれます。コウタケとかおいしいですよ」

 次回は山の恵みを堪能できそうです。

里山十帖

所在地 新潟県南魚沼市大沢1209-6
電話番号 0570-001-810
部屋数 13室
料金 1室2名利用1名2食付 32,395円~
http://www.satoyama-jujo.com/

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2024.09.14(土)
文=大嶋律子
写真=鈴木七絵