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遺された作品の一部は棟方志功ゆかりの宿で常設展示

――そして、ナンシーさん亡き後、遺された消しゴム版画の山は、真里さんとナンシーさんの友人たちで7年の歳月をかけ、人別、ジャンル別に整理され、その数は約5000点にのぼったと。今回その一部が浅虫温泉の「椿館」に常設展示されるそうですね。

真里 これらの膨大な作品をどうすればいいのか、実はずっと悩んでいるんです。「椿館」は私たち家族にも縁のある旅館ですし、姉が尊敬する版画家・棟方志功の定宿でもあったので、すごくいい場所だと喜んでいるんです。

いとう しかしさ、単純に計算したら1日何個彫ってたんだろう、ナンシーは。

真里 でも本当は、5000じゃなくてもっとあるんですよ。最初のうちは人にあげたりしていたし、出版社に入稿したまま返却されずに紛失したものもあったり、だいぶ時間が経ってから、編集部の人から「預かったままでした」とゴソッと戻されたものもあります。

 あとはやっぱり、消しゴムですから、経年劣化でボロボロになってしまったもの軽く2000個くらいはあったんです。だから、お姉ちゃんが生涯何個の消しゴムを彫ったのか、本当の数はまったくわからないんです。

いとう ていうか、それは円空。ナンシーは棟方志功だと思ってたけど、円空だったんだね。

全員 あはははは。

いとうせいこう、町山広美の「記憶に残るはんこ」

――そんな膨大な作品の中から、「マイベストはんこ」を決めるのは難しいとは思いますが、いとうさん、町山さんの記憶に残る名作ってあるでしょうか?

町山 桂歌丸、浅香光代、大川隆法……うーん、決められない(笑)。あ、でも勝新太郎が好きかな。中村玉緒と。

いとう 俺はやっぱり「逆立ちしてる俺」かな(笑)。あと、俺がすごく若い頃の似顔絵で、大島渚さんとセットで彫られている消しゴムがあるんだ。俺は大島さんにはお会いしたことがなく、交流もなかった。ナンシーはなぜこの組み合わせで彫ったんだろう、というのがナゾのままだけど。

町山 このいとうさん、態度悪いね。

いとう 灰皿も一緒に彫ってあるから、殴られるぞ!ってことだったのかな(笑)。

2025.04.01(火)
文=辛島いづみ
撮影=平松市聖