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また食べたい…。「かね万」の鮮度バツグンの刺身

 次に紹介するのは、茂木漁港近くに店を構えるいけす料理「かね万」(長崎市茂木町)。4代目店主・池山実さんの曽祖母が1932年に始めた茶屋がルーツで、その後旅館業を経て、現在は料亭として営業。企業の会食や家族の祝いごとなど、古くから地元客に親しまれている。

 売りは、なんといっても新鮮な地魚を使った料理だ。橘湾で獲れた季節の魚を仕入れ、店内のいけすから活きのいいまま、熟練の板前がさばく。そんな地産地消にこだわった料理とともに、和室からのオーシャンビューが自慢だという。

 池山さんは、「海景色を堪能しながらゆっくりと食事を楽しんでいただきたいです。お時間が許すようであれば、夕方早めのお越しがおすすめです」と話す。

 今回は、夜の到着となったので次回は海景色も見たいところだが、暗いなかに明かりが灯る料亭もなかなか雰囲気があった。和室の座卓に着くと、鮮やかな朱色の円卓に、次々とコース料理が並んでいく。

 地元で「ざっこエビ」と呼ばれる小さなエビのから揚げ、鯛と車エビの塩焼き、みそ酢を添えた鯛とフカの湯引きとミズイカの刺身、それからサザエのつぼ焼き、エビと野菜の天ぷら……終盤には白米にみそ汁、漬けもの。そして、デザートに茂木名物のびわゼリー。料理9品の、とても充実した内容だった。

 なかでもとくに感動したのが、刺身。ヒラメの姿造り、その脇にヒラス(ヒラマサ)も。大皿がテーブルにどんと到着すると、おおっと卓のみなが歓声を上げた。食べてみると、いい弾力がある。知っている刺身と、全然違うのだ。このコリコリとした歯ごたえは、新鮮な魚でしかありえないという。その味はさっぱりしていて、なるほど、長崎らしい甘口醤油によく合う。

 地元住民が「長崎といえば、刺身だ」と推すのがよくわかった。そういえば先日、長崎で生まれ育ったという大阪のタクシー運転手が、「長崎の寿司が恋しい」なんて話していた。釣り好きの友人が、足しげく長崎へ通うのもそういうことか。

 そんなうまい刺身に、酒も進む。かね万では、「飛鸞」(森酒造場)、「杵の川」(杵の川)、「本陣」(潜龍酒造)など、地元の日本酒を置いている。

 さて今回は、長崎の歴史と自然が育んだ逸品を紹介した。こうやって旅を振り返り、文章につづりながらも、“ああ、あの味をもう一度”と、思うわけである。

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2025.04.02(水)
文=一ノ瀬伸
写真=釜谷洋史