厳寒期に釣りに来るには理由がある
『「大胆すぎる…」海上に浮かぶ“漁師手作りの小屋”で釣りが楽しめる長崎県の“民宿”が釣り人にとって魅力的すぎた』で紹介した「かずおばんの家」を出てからも上五島では毎日のように寒風が吹きすさぶ。昼間に堤防で釣りをしてみたが、風裏に回り込んでも身の危険を感じるほどの突風に煽られることもしばしば。
それでも天候が荒れやすい厳寒期に来島するには理由がある。五島のアジの旬は12月~2月頃で一年を通して最も脂質が高く、脂の乗ったアジが釣れるのだ。アジの旬は一般的に晩春~初夏とされるが、旬の定義を「美味い時期」と考えるなら、ここ五島ではアジの餌となるキビナゴが接岸する厳寒期がそれに値するらしい。

プランクトンを主食とするアジが栄養豊富なキビナゴを捕食することで、人間でいうメタボ体型となるのだ。上五島のスーパーをのぞいてみても、今朝獲れたであろう縞模様が艶やかなキビナゴが売られていた。戦況は追い風だ。
堤防からカゴ釣りで狙う
日付が変わる時間に宿を出発して釣り場へ向かう。平日の深夜ともあって釣り人はだれ一人おらず、本土では考えられない釣り場を独り占めする優越感に浸る。しかし山から吹き下ろす風は冷たい。気温は5℃でも体感温度は0℃を突き抜け今季一番の忍耐が試される状況だ……。

釣り場は外洋に面した大型の漁港を選んだ。以前、上五島を訪れた際に海面がもじゃもじゃとキビナゴの群れでざわついている様子を発見していたので、アジも接岸しやすいエリアだと把握していた。重い仕掛けが投げられるタックルを用意して早速釣りを開始する。

今回行った“カゴ釣り”はコマセで魚を寄せる釣りなので、はじめの1時間は魚からの反応がなくても、根気よく餌を投じ続ける必要があるのだが、環境が環境なだけにみるみる体力と精神が削がれてゆく……。
しかし、それも想定内。これまで冬の釣りを乗り越えてきた経験から、ガスコンロと袋麺を持参してきたのだ。野菜入りのラーメンを素早く調理して車内でいただく。

これぞ釣り人の叡智。釣り場で食べるラーメンは全てを解決する。
2025.03.15(土)
文=ぬこまた釣査団(大西)