この記事の連載
視聴者の投稿怪談にゾッとしたりほっこりしたり

――好井さんのYouTubeは視聴者が投稿する怪談もクオリティが高いと評判です。
「怪談」の定義は人それぞれですが、オバケ、ヒトコワ(結局、人間がいちばん怖いという話)、不思議な現象、事件なども含めた“怖い話”全般が僕は好きなんです。そう言い続けていたら、「馬鹿にされると思って話せなかったのですが聞いてもらえますか」とか「家庭の事情で内緒にしていた」みたいな投稿やメッセージがどんどん来るようになった。またそういう人の話がものすごく怖かったり、いい話だったりするんです。
送られてきた怪談をそのまま動画に上げるということはあまりなく、電話で追加取材や経緯の確認をすることが多いんですが、話しているうちに3 分の2くらいの人が泣き出しちゃうんですよね。当時の体験を思い出して。で、僕もつられて泣いちゃったり。
ある家族の娘さんが体験した怪異について、そのお父さん、お母さん、おばあちゃん、ダンナさんとリレー形式で話したこともあります。トータル3時間くらい。動画にできるような話ではなかったんですが、ひとつの出来事に対していろんな視点からの話が聞けて、最終的にはほっこりして、すごくいい時間でした。
かと思えば、別の意味で動画にできないようなエグい話も集まってきます。ある新興宗教の関係者に親戚を殺されて、その後生きた心地がしなかった2年間の話とか、殺人犯からギリギリのところで逃げられた人の話とか。
――事件の当事者は人に言えない思いやトラウマを抱えているでしょうね。
強烈な体験ほど、関係ない第三者のほうが話しやすいという場合もありますから、僕をある種のはけ口として利用してもらって構わない。ただ、聞いた話について「僕がいつ話してもOKですね」という言質は取ります。もちろん当事者が絶対に特定されないよう、性別や年齢、場所、起こった時期なども細かく変えて話しますが。
最近では、東日本大震災で被災された方の話を聞く機会がありました。巨大な黒い壁のような津波。たくさんの人が轟音とともに流されていく様子。何もかもなぎ倒した津波が引いていく音は小川のせせらぎのように静かだったこと。そんな生と死の狭間を体験したあとの心霊体験も。
どこまで動画にできるか、まだわかりません。こうしたシチュエーションの怪談を不謹慎だと思う人が一定数いるのも確かです。ただ、これだけはみんなに伝えたいなということが結構あるんですよね。
自分あるいは大切な人の死を目の前にして、人はなにを思い、どんな行動に出るのかということや、世の中には理解不能な恐ろしいこと、奇跡のようなことが起こりうるんだということ。それを怪談というエンタメを通して伝えることができたら、多少なりとも心の準備が出来て、救われる人がいるかも知れないと思っています。

――好井さん自身、阪神・淡路大震災の際に怪異を目の当たりにしており、予言が現実になるというかなりヘビーな経験もお持ちです。詳しくはぜひ本書をお読みください。

好井まさお(よしい・まさお)
1984年生まれ。大阪府出身。NSC東京校を卒業後、2007年に井下昌城(現・井下大活躍)とお笑いコンビ「井下好井」を結成。2022年12月31日に解散し、ピン芸人に。それ以前から俳優、怪談師としても活躍。YouTubeチャンネルは、ファッションに特化した『好井&カナメクト』、怖い話に特化した『好井まさおの怪談を浴びる会』などを運営。『好井まさおの怪談を浴びる会サロン』も開設。2025年2月にスタートした全国ツアー「劇場版 好井まさおの怪談を浴びる会」も盛況。
好井まさおの怪談を浴びる会 https://www.youtube.com/@yoshii-abirukai

好井まさおの怪談を浴びる会
定価 1,650円(税込)
KADOKAWA
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2025.03.27(木)
文=伊藤由起
写真=榎本麻美