――「dancyu」にも載っていた「里芋の葱油炒め(葱油芋艿)」。私は『あたらしい家中華』を見てつくったのですが、びっくりするくらい簡単で、めちゃくちゃおいしくて、感動しました。
酒徒 それはうれしいですね。
あの料理は、僕も初めて知ったときは、まさに同じような感動を覚えて、これでもう里芋の消費に困らないというか、実家から送られてくる大量の里芋を食べられるようになったというか、ただの衣かつぎじゃ絶対に消費できないような量を食べちゃうじゃないですか。つくりかた自体もすごく簡単で、自分で料理をする楽しさを自覚した料理のひとつではありますね。
外食の「町中華」でも「ガチ中華」でもなく…
――材料も少ないし、塩味だけで素材の味を生かされて、「トマトの卵炒め(西紅柿炒蛋)」なんかもそうですけど、家庭のおかずみたいだなあと。日本で食べる中華料理って、いまでしたら「町中華」とか、主に池袋周辺の「ガチ中華」とか、あるじゃないですか。
酒徒 はい、はい。
――どちらかといえば濃い味つけの、日本人が好きな中華料理と、酒徒さんが思われる中華料理に、ギャップを感じることはありますか?
酒徒 それはぜんぜん違うなと思っていて、いわゆる「町中華」だけを中華料理だと捉えている方にとっては、この本に出てくる料理は、かなり違うものだなというふうに映ったと思います。

日本で一般的に中華料理といわれて想像するものは、外で食べる料理だと思うんですよ。誰かがつくって、レストランで食べる料理。そのイメージが強いからか、たとえば青椒肉絲とか、エビチリとか、がんばって家でつくらなくてもいいようなものも、すごくがんばって再現するというレシピが、基本になっていたんじゃないかなと。
それに対して、僕がレシピ本で紹介したのはふだんのおかず、中国の人がふだん家で食べている料理ばかりだったので、読者にとってもギャップとして新鮮に映ったのかなって思っています。
うま味調味料は「入れないで」
――いわゆる昭和の「町中華」でいうと、うま味調味料も味のうち、といったイメージがありますが、中国の現状はどんな感じでしょう。
酒徒 あ、ふつうに使ってますよ。がっつり使ってる店も多いです。
レストランで注文するときは、「入れないで」って、僕は言いますけれども。うま味調味料自体はただの「うま味」なので、それが危険だという派閥では僕は全然ないですし、入れるも入れないも単なる好みだと思っていますが、自分の好みで言えば、入れすぎていると感じる店が多いので。

――「入れないで」とお願いしたときの、お店の方の反応は?
酒徒 「ああ、好きじゃないのね」って感じです。
なんていったらいいですかね、日本では漫画の『美味しんぼ』的なノリで、うま味調味料がわるものにされがちなところがあると思うんですけど、中国にはそういう価値観があまりないので、単なるワン・オブ・調味料なんですよ。辛さを弱めにしてくれとリクエストするのと同じ感覚で、ある意味すごくニュートラルです。
2025.02.25(火)
文=中岡愛子