創業は1971年、ランチタイムの行列はもはや骨董通りの日常風景、幅広い世代から愛され続ける店、東京・南青山の「中華風家庭料理ふーみん」。数々の名物料理が生まれたその厨房で約45年にわたり腕を振るったオーナーシェフの斉風瑞(さいふうみ)さんは“ふーみん”“ふーみんママ”の愛称で親しまれてきました。
「ふーみん」を70歳で勇退し、現在は神奈川県川崎市の新たな拠点、「斉」で1日1組のお客様をもてなすふーみんさんを訪ね、「ふーみん」と“ふーみんママ”の約50年の食の歴史を中心に新天地でのこれからについて、そして、創業50周年を記念したドキュメンタリー映画についてお話を伺いました。生涯現役でありたいと願うふーみんさんの今、そしてこれからとは?
一人で涙をポロポロこぼした日々もあった
1986年5月、40歳のときに現在の南青山・小原流会館地下に移転。席数は神宮前の店の3倍以上に。店のテーマカラーとロゴは常連客だったイラストレーター・灘本唯人さんに依頼。同じく常連のイラストレーター・五味太郎さんが描いたにんにくの絵がシンボルマークに。
斉風瑞 南青山のお店は広すぎるんです、私にはね。最初はとにかくちゃんと回転させなくちゃいけない! って頑張らなくてはなりませんでしたから。オープンキッチンにしたのは、お客様の表情を見ていたいという思いからです。美味しそうに召し上がってる方もいれば、ときにはちょっとつまらなさそうにして召し上がっている方もいらっしゃいます。私は「ふーみん」にお越しいただいたお客様が食事をされる1時間か2時間の間は、幸せにな気持ちになっていただきたいんです。その思いはずっと変わりません。
ランチ営業もスタート。ランチタイムにできる行列は現在も変わらない。
斉風瑞 お店のメニューの基本は自分が食べたいもの、好きなもの。私は辛いものが苦手だからエビチリや麻婆豆腐、回鍋肉は作らなかったんです。でも、ランチを始めてから、そういったみなさんが好きな中華の人気のメニューもたくさん勉強しまして、麻婆豆腐と回鍋肉はランチの看板メニューになりました。
※ランチ限定「豚肉の梅干煮」(通称「梅定」)は、斉家の定番料理に梅干しを加えてさっぱりと仕上げた超人気メニュー。
たくさんのお客様に来ていただいて、おかげさまでお店は人気店になりました。でもね、労多くして功少なしというか、私はどうしてこの仕事をしているんだろうって悩んで、一人で涙をポロポロこぼした日々もあったんですよ。息の抜き方がわからないから仕事でいっぱいになっちゃったの。真面目なんですね。
そんなときにお友達から渡された一冊の本のおかげで吹っ切れて、料理との向き合い方も少し変わったように思います。私たちの体は食べもので作られ、日々の食事で性格だって変わることもあります。だから私はもっともっと責任を持って、愛情を込めて料理を作らなくてはいけないんだということに気付いたんです。それからは体が喜ぶ料理、心を癒やす料理を強く意識するようになりました。
2024.05.31(金)
文=齊藤素子
写真=榎本麻美