この記事の連載

ポケットで温めてつくる麹。麹づくりは五感を鍛える手仕事

―― なかじさんの新刊『麹づくりと発酵しごと』は、種麹を使って自家製の麹をつくる料理本ですよね。

「甘酒や味噌をつくる人はいると思いますが、麹はまだあまりいないですよね。でも、実は麹だって自分の手で、家の台所でつくれるんですよ、っていうことを伝えたかったんです。教室、ワークショップなども開催して、つくり方を教えています」

―― 麹づくりで難しいところはどんなところでしょうか。

「難しそうに思われるかもしれませんが、実際はそんなことはないんですよ。気をつけるべきポイントはひとつ、温度管理です。環境が整えば、自然に菌は増えていって成長します。実は今、僕のポケットでも麹が育っているんですよ」

―― 「ポケット麹」ですね! 新刊で拝読しました。こんなに簡単につくれるんだ、と一気に麹作りのハードルが下がりました。

「3日間ポケットに入れて肌身離さず持っておくだけで完成します。ひとつのポケットでだいたい80グラムの麹ができあがるんですよ。麹菌の成長する適正温度は35度で、体温が36〜37度ですから、体温に当てておくのがちょうどいいわけです。

 量が多いと面積が増えて温度が低くなりやすくなるので、80グラムとアナウンスしていますが、ポケットが2つあれば160グラムできますよね。パートナーと一緒に作れば320グラム、家族3〜4人なら500グラムの麹だって無茶な話じゃない」

―― 500gだと、市販品と同じくらいですね。

「そうなんです。マイポケット麹を使って1キログラムから1.5キログラムくらいの味噌を仕込むことができちゃうんです」

―― マイポケット麹! なんだか面白いですね。

 「同じ方法で同じようにつくってみても、その時、つくる人によって麹の香りが違ったりします。菌は目に見えないものですが、確実にそこにいて、僕たちのアプローチに反応してくれるのがおもしろいんです。

 日常生活だと、フラッとどこかのお店からおいしそうな香りが漂ってきたりとか、桜を見て春だな、とか、そういうどこか受け身の感覚の使い方の方が多いと思うんですよね。

 でも、発酵食品をつくるときは、その真逆。どうなっているかな、って自分から微かなにおいを嗅いだり、触ってみたりしながら、一生懸命五感を使って菌の痕跡をキャッチしようとします。感覚を研ぎ澄ませようとするその感じは、人間らしく生きていくという意味でも役立つと思います」

2025.02.19(水)
文=吉川愛歩 
写真=末永裕樹(インタビュー)、寺澤太郎