この記事の連載
- かねひさ和哉インタビュ―【前篇】
- かねひさ和哉インタビュ―【後篇】
当時の表現をリスペクトした上で、模造品にならないものを作りたい
――NHK『みんなのうた』で岡崎体育さんの楽曲「ともだちのともだち」のアニメーションも制作されましたね。番組にとてもフィットした作品だと思いました。
実はもともと『みんなのうた』の大ファンでして。音楽に合わせて動くアニメーションというのが、僕にとってある意味アニメーションの一番理想としてるところでした。僕のアニメーションの模範、理想として君臨してる番組なので、嬉しかったです。
特にアニメーターとしては南家こうじさんや、堀口忠彦さんの作品から強く影響を受けていると思います。プレッシャーはありましたが、だからこそ、当時の表現をリスペクトした上で、模造品にならない、当時の亜流、二番煎じにならない、僕だからこそできるようなものを作りたいという思いはありました。
――模造品にならないよう意識されていることを教えてください。
たとえば、「はいよろこんで」のMVの場合、出てくるキャラクターはもともと僕が創作してYouTubeに上げていた「カネヒサ君」をそのまま使っています。
キャラや美術は昭和30~40年代の大人向けの漫画雑誌に連載されていた風刺漫画のスタイルを借用しているんですけど、それらの絵は比較的硬いものなんです。高度に抽象化・デフォルメされたもので、キャラクターを動かすためのものではないと思うんですけど、それをテンションの高い音楽に合わせて、テンションの高い動きをさせる。動きは1930年代のアメリカのカートゥーンに影響を受けています。それを1960~70年代の日本の漫画のスタイルと噛み合わせると、奇妙な面白さが出るんですよね。
では自分ならではの表現とは何なのかというと、やはりアニメ史の研究をやっていたこともあり、アニメーションや漫画がどういう表現、歴史を辿ってきたのかっていうことに対する強い関心が核になっていると思うんです。
その上で作り手として僕が大事にしていることは、「楽しさ」。本来アニメーションや漫画が持っている原始的な楽しさ、面白さ、粗削りでもいいから見てたら気分が上がる、何度でも見たくなるみたいなものを大事にしたいと思っていて、それが自分のスタイルというか、ある種のオリジナリティみたいなものにもつながってくるんじゃないかなと思っています。
――クライアントワーク以外で、これから作りたい作品のモチーフはもう決まっていますか?
アニメーション史にもっと目を向けて、アニメの歴史を戯画化する企画をやってみたいと思っています。架空の一本の長寿アニメをでっち上げて、それを作った人のインタビューとして制作過程を語ったり、それにどういう企業やどういう社会状況が関わって、どういうことが起こったのかを見せたりということを全部フィクションでやろうと思っています。
自分の核となっている楽しさ・娯楽性を確保しながら、作品の置かれた運命というか、歴史に付随する作品の文脈が時代によってどう移り変わっていくのかを見せる作品を作ってみたいです。
2025.01.25(土)
文=綿貫大介
画像=かねひさ和哉