この記事の連載
- かねひさ和哉インタビュ―【前篇】
- かねひさ和哉インタビュ―【後篇】
リズミカルなメロディとサビ部分「ギリギリダンス」のキャッチーな振り付けで、SNS総再生回数150億回超えの大ヒットを記録した、こっちのけんとさんの楽曲「はいよろこんで」。
明るい曲調とは裏腹に歌詞はいきづらさを抱える人にあてたメッセージ性の強いもので、その意味深な歌詞の謎解きに多くの人が夢中になった。
「はいよろこんで」の世界観の解像度をより上げたのが、昭和の漫画テイストのMVだ。作り手のかねひさ和哉さん(23歳)に、この作風に至った背景や「はいよろこんで」の制作舞台裏について聞いた。前篇と後篇の2回に分けてお届けする。
昭和が好きというより、ある特定の表現・作品が好き
――かねひささんの代名詞といえば、現代社会を昭和30~40年代のテイストで表現したアニメーションです。昭和という時代への興味はいつからお持ちでしたか?
昭和が好きというより、ある特定の表現・作品が好きといったほうが正しいかもしれません。たまたま自分の好きな表現が昭和の特定の時代に固まっていたんです。いつから興味があったかというと、だいたい幼稚園児ぐらいの頃から、昔のアニメーションやテレビコマーシャルに惹かれて見ていたと記憶しています。
――見る機会があったんですか?
当時、バラエティの特番で『鉄腕アトム』や『天才バカボン』を紹介するような番組が結構放送されていたんです。そういうものを見て昔の作品に興味を持ったのがきっかけでした。
――昭和のアニメに惹かれた理由はなんだったのでしょう。
気づいたら夢中になっていたのですが、今改めて推測するに、シンプルな絵がすごく生き生きと躍動感を持って動いていたことに興味が湧いたんだと思います。近年のアニメ作品はストーリーや物語性、あるいは繊細な描写が素晴らしいですが、そういうものよりはむしろ、粗削りでも作っている人の楽しさが伝わる、勢いがあるアニメーションに惹かれた部分もあるのかなと思います。
――手作り感、クラフト感が逆によかったんですね。
まさにそうです。フィルムやVHSっぽい質感にも、手作り感、アナログ感がある。ただのデータではなく、物質としてまるでそこにあるような感じのするものはいいなと思いますし、僕自身、表現として大事にしたいです。
――昔から好みが渋かったようですが、かねひささん自身はデジタルネイティブな世代ですよね。
そうですね。ですから、たとえば僕の作品のベースになってる昔のコマーシャルやアニメーションは、インターネット上での配信などをきっかけにハマっていきました。アニメの歴史についてもすごく興味があるんですけど、それに関しても最初はWikipediaの知識などから入ってるので、簡単にインターネット上で映像や音楽が楽しめる時代に生まれたおかげと言えます。
――ネットのおかげで情報を掘り起こしやすかったと。
割と誰でも世界中のどこでも、いろんな国のものが見られる環境にあったからこそ、結構いろんなものに興味を持って掘っていくことができたのだと思います。
――CDは買ったことがありますか?
はい(笑)。うちは僕が中学校に入るぐらいまでは普通にMDやCDを使ってたんです。なので、今でも結構Spotifyとかで配信されてないアルバムのCDなどは買います。
――デジタルネイティブ世代でありながら、物質も身近にあったのはいい環境でしたね。
はい。両親が共働きだった関係で祖父母の家によく預けられていたのですが、そこにも昔のものがたくさんあって。フィルムに関しても、祖父母の家に昔の8ミリフィルムカメラと映写機があり、祖父に使い方を教えてもらって、祖父が過去に撮っていた8ミリフィルムを遊びで上映したりしてたので、フィルムの使い方とか、フィルムがどういう仕組みで映ってるのかなどは小中学生の頃には理解した上で楽しんでいました。
2025.01.25(土)
文=綿貫大介
画像=かねひさ和哉