リズミカルなメロディとサビ部分「ギリギリダンス」のキャッチーな振り付け、メッセージ性の強い歌詞が多くの人の心をつかみ、SNS総再生回数150億回超えの大ヒットを記録した、こっちのけんとさんの楽曲「はいよろこんで」。
同じく大いに話題となった、『サザエさん』を連想させる昭和テイストのMVの作り手・かねひさ和哉さん(23歳)に、「はいよろこんで」のMV制作の背景と随所にちりばめられたギミック、作品に込めた思いについて語ってもらった。
かねひさ和哉さんの元にこっちのけんとさん本人からメールが
――「はいよころんで」のMVもかねひささんの作品です。オファーの経緯を教えてください。
2024年の4月に、こっちのけんとさん御本人からメールをいただきました。もともと僕の作品のファンでいてくれたようで、特に昭和の大人漫画のスタイルを使って描いた作品に興味を持ってくださっていたようです。
オファーの時点でデモ音源をもらったのですが、現代の人々がいろいろ精神的な問題、つらさみたいなものを抱えながら、それと向き合って生きていくというテーマ性を感じました。僕自身もいじめや誹謗中傷であったり、双極性障害のような病を抱えている人間ではあったので、当事者意識も手伝って、これはもしかしたら誰かを救う作品になるかもしれないと思って受けたという経緯があります。
――こっちのけんとさんから何か「こうしてほしい」という注文はありましたか?
特別ありませんでしたが、けんとさん自身、テーマとして「サザエさん症候群」のようなことは意識していたようです。そこで昭和的なアニメーションが合うのではという気持ちはあったのではないでしょうか。
僕としても、昭和の大人漫画というのは基本的にサラリーマン漫画で、人間関係のつらさ、哀愁みたいなものを笑い飛ばす内容が多いと思っていて、大人漫画特有の、悲しみを湛えたユーモアはこの曲に合うのではないかと思いました。
――たしかに昭和の大人漫画は、つらさをネタにしてオチをつけ、笑い飛ばすような明るい読後感がありますね。
そう、戯画化されているんです。たとえば当時のサラリーマン漫画だと、部長に怒られて「トホホ……」みたいな感じで。あくまでもギャグ漫画の世界、コメディの世界だからそういう表現になるわけですね。でも「はいよろこんで」に関しては、昭和の大人漫画のタッチの絵が出てきますが、アップしていくとキャラクターが汗をかいてたり、震えていたりするような仕掛けをしています。それは意図的な演出で、表面的には明るく楽しいものに見えていても、注意深く見ていくとそうじゃないよね、ということをちゃんと示したかった。
2025.01.25(土)
文=綿貫大介
画像=かねひさ和哉