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里山十帖でしか味わえない、滋味溢れる秋の味覚

 この日の前菜としてコースの最初に運ばれてきたのは「白和え」。桑木野シェフが師と仰ぐ、地元のキノコ名人が採ってきたウラベニホテイシメジや、五泉市の蓮根農家・羽賀恵子さんから直送される新蓮根などを炭火で焼いて白和えにしたものです。

「五泉市は新潟のなかでも蓮根の一大産地として知られていますが、無農薬栽培は羽賀農園さんだけ。農薬と化学肥料を使わずに栽培することは大変な作業で、全国的に見てもわずかだと思います。丹精込めてつくられる羽賀さんの蓮根は、瑞々しくて自然な甘みが別格です」

 また、ウラベニホテイシメジのほろ苦さは、やさしい味わいの白和えとよく合い、歯切れがよさも楽しめます。やわらかいタケノコのような食感とほんのり甘いマコモダケや大粒の銀杏など、食材によって異なる歯応えも楽しめるひと皿に。

 夏に続いて秋もペアリングをオーダー。桑木野シェフが「白和え」にセレクトしたのは、新潟市にある笹祝酒造のスパークリング日本酒「祝吹(しゅくふく) イエローラベル」です。

「白和えの味つけは塩のみとシンプルですが、食材を白炭で焼いているので、味はしっかりしています。甘すぎずキリッとした味わいのスパークリング日本酒を乾杯酒としてどうぞ!」

 2品目は、精進料理のなかでも逸品といわれる、芳香が身上の天然キノコ、コウタケを炊き込んだご飯です。

「特長はなんといっても独特の香り。煮えばなという炊き立てのやわらかいご飯の状態でお出ししています」

 コウタケのコクのある香りと上品な旨みをたっぷりと含んだお米は、噛むほどに味わい深く、しばしうっとりしてしまうほど。さくっとしたキノコの歯応えも新鮮です。2年漬けたという自家製梅干しの酸味が絶妙なアクセントに。

 ペアリングは、100年以上の歴史をもつ八海醸造が醸す、次世代のライン「唎酒(りしゅ) No.591 ハルジオン」。「食に寄り添い、心はなやぐ酒」をテーマに、八海山とは異なるアプローチで新しく設計された日本酒です。蔵人の感性と技術でその年ならではの味わいが楽しめます。

「こちらは柑橘香をまとう爽やかな酸味と甘みのある日本酒です。心地よいほのかな苦味が、旨みの強いコウタケの味わいを邪魔せずに、いっそう引き立てます」

 次なる料理は、天然キノコをふんだんに使い、山の恵みを濃縮した「森のスープ」です。

「その名の通り、全部、森で採れたものが入っています。ハツタケなど出汁がとれるキノコをスープに使い、清涼感のある香りのクロモジやモミの木など、近隣の森で採取した小枝と一緒に煮出すことで、キノコ狩りに入ったときの、あの山の香りを味わっていただければと思います」

 深いコクがありつつ、さっぱりとした「森のスープ」には、ムカゴや山胡桃もプラス。仕上げの行者ニンニクのオイルで、少しパンチを加えているそう。

 「森のスープ」には、新潟ワインコーストに属する、ドメーヌ ショオのオレンジワイン「Whatever will be, will be/なるようになるさ」を組み合わせ。

「キノコ特有の香りやコクもあるのですが、ペアリングはあえてスープにはない味を足すイメージで合わせてみました。柑橘、ジンジャーといったトップから酸と旨みが広がっていく少し苦味も感じられるオレンジワインです」

 続いて供されたのは、三面川(みおもてがわ)の「落ち鮎」です。新潟の北部、村上を貫く三面川は、朝日連峰に源を発し、いくつもの支流を集めて日本海へと注ぎます。鮭の遡上で有名ですが、天然鮎でも知られています。

 秋になると産卵を控えた鮎が川を下ることから「落ち鮎」と称されますが、この時期の鮎は卵を持っているため「子持ち鮎」ともいわれています。夏の鮎はスイカのような香気を、秋の鮎は卵を味わうことができます。

 「落ち鮎」は、炭火で焼いて骨を取ってから、薄い春巻きの皮で包んでパリッと揚げたもの。これに、爽やかな辛みが特徴の伝統野菜・かぐら南蛮を細かく刻んだソース、焼きピーマン、ツルムラサキを添えています。

 卵のぷちぷちとした食感が楽しく、身と卵が混ざり合うことで独特なコクもある「落ち鮎」には、Heisei Brewing(平成ブリューイング)の「臥龍長生(がりゅうちょうせい)」をセレクト。数種類のアメリカンホップを用いた、グレープフルーツのようなフレーバーが爽やかなアメリカンペールエールです。

 ちなみに、Heisei Brewingは、長岡市で400年続く醤油屋さんが2021年に設立したクラフトビールのブルワリーだそう。モットーは、食中酒としての飲みやすさ。スルスルと喉を通る軽やかさ、シャープなキレもあり、まさに食中酒にぴったり。

 佐渡産のズワイガニのほぐし身をこんもりと盛りつけた「発酵野菜」が、5品目に登場。下に隠れている野菜は、ずいき、大根、ズッキーニ、きゅうり、本当の梨なす、赤たまねぎ。

「赤たまねぎは、春に仕込んでおいたキムチの素と合わせ、本当の梨なすは揚げ浸しに。それ以外は、お米のとぎ汁で発酵させた野菜です。仕上げに回しかけたソースは、丁寧に擦った胡麻ミルクと野菜やハーブを乳酸発酵させたエキスを合わせたもので、少し酸味があります」

 捨ててしまいがちなお米のとぎ汁を発酵に活用した「発酵野菜」は、酸味や風味が増し、乳酸菌もたっぷり。腸活にも役立ちそうです。どんな食材も無駄なく使うという桑木野シェフの思いはこのひと皿にも表れています。

2024.11.17(日)
文=大嶋律子
写真=鈴木七絵