この記事の連載

佐渡島、南魚沼、三条の食材と新潟市のワインとで新潟ひと巡り

 6品目は佐渡から届いた鯛を使った魚料理です。地元の山で採れたヒラタケやカリフラワーを香ばしく焼き、旨みある鯛の出汁で火を通した「海と大地」。澄み切った出汁に山椒のオイルをひと匙、ピリリとした風味をプラスしています。

「カリフラワーは焼き浸しのようにしています。大きくて食べ応えのある落花生、おおまさりも召し上がりください」

 鯛の身はほどよい弾力を残しつつ、口の中でほろり。肉厚のヒラタケはプリプリとしてジューシーです。鯛の出汁だけでなくヒラタケの旨みも溶け込んだスープが絶品。

 新潟では昔からハレの席に豚肉が振る舞われていました。牛肉を食べるようになったのは近年のことだそう。

 「里山十帖」では、地元の銘柄豚「妻有ポーク」や「黄金豚」で料理を提供していますが、牛肉には、妙高市「笹ヶ峰牧場」の山でのびのび育った「短角牛」を一頭買いして使用。

「牛肉はマリネしてから焼いてスライス。地元の丸なすを直火で焼いたものと、同じく地元のいちじくに山胡桃の味噌を合わせたものを器に盛りました。そして山で拾ってきた山栗を生のまま削りかけています。仕上げは、この辺りに実るスミカンという柑橘の皮をほんの少し」

 まるでチーズのようなコクが感じられる野生の山栗は、香りもよく美味。生で味わえるのは採れたてだからだそう。

 お待ちかねのメインディッシュ、土鍋で炊きあげるご飯は、南魚沼産コシヒカリの新米をいただきます。お米をとぎ、炊くすべての水は大沢の山の湧き水を使っているそう。

 南魚沼市は、越後三山に囲まれ、冬は深い雪に閉ざされる豪雪地帯。肥沃な粘土質の土壌に加え、山がたくわえた冷たい雪解け水がお米を引きしめることで旨みが増し、魚沼盆地特有の昼夜の寒暖差がお米をおいしく実らせるといいます。

「保管からごはんの炊き上げまで細心の注意を払っています。お米の保管は常に湿度が90%以上で3度前後の天然の冷蔵庫・雪室で。乾燥を防ぎ、食味が落ちがちな夏でもおいしいお米を保ちます。朝夕と毎回、使う分だけ精米しています」

 テーブルごとに土鍋が置かれ、目の前で炊飯。しばらくすると鼻をくすぐるのは、湯気とともに立ち上がるお米の甘い香りです。

「ご飯の持ち味を最大限に引き出してくれるのが、遠赤外線効果もある土鍋です。せっかく米どころ、南魚沼のこの場でお出しするのであれば、さまざまなかたちのお米を楽しんでもらいたい。そんな思いで提供しているのが“煮えばな”です」

 お米という素材が、ご飯に変わる瞬間が「煮えばな」。水分をたっぷり含んだお米のことで、まずひと口、炊きたての煮えばながよそわれます。パスタでいえばアルデンテのような少し芯の残っている食感。瑞々しく、甘く、香りを楽しむエンタメ感も味わうことができます。そして再びふたをして蒸らします。

 ぴっかり、ぽっかりと歌い出してしまいそうなコシヒカリは、噛むごとに甘みが口に広がり、ご飯のおいしさを改めて伝えてくれるものとなっています。

 時間の経過で食感も味も香りも変わる、ご飯。これこそ、里山の恵みを堪能できる逸品です。

 秋の果実といえば、柿。コースの締めを飾るのは、新潟のブランド柿を用いたデザート「おけさ柿」です。おけさ柿は色が濃く形が偏平で、種がないのが特徴。甘くてジューシーなうえ、とろけるような食感もたまりません。

「おけさ柿はブランデーで火を入れ、バーナーで表面を焼いただけ。ブリュレのようにパリッとした表面は、砂糖をまぶしてキャラメリゼにしたのではなく、おけさ柿そのものの甘みによるものです」

 長岡市の加勢牧場で育てるガンジー牛のゴールデンミルクでつくったという、さっぱりと軽やかな自家製クリームとのバランスも絶妙です。

 今回の「里山十帖」では、新米、野生のキノコ、伝統野菜など、実りの秋を実感できる料理を堪能できました。次回は冬。豪雪地帯として知られ、昔から雪と共存することで生まれた独特の食文化をもつエリアでは、どんな料理が供されるのでしょうか。

「雪国の人々にとって、食材を長期保存できる発酵は昔から身近なものです。この地域ならではの雪室も活用していますので、次回、ご紹介したいと思います」

里山十帖

所在地 新潟県南魚沼市大沢1209-6
電話番号 0570-001-810
部屋数 13室
料金 1室2名利用1名2食付 32,395円~
http://www.satoyama-jujo.com/

← この連載をはじめから読む

2024.11.17(日)
文=大嶋律子
写真=鈴木七絵