この記事の連載

「写真を撮って」という依頼がいつの間にか「新作を作って」に…

 リサにトイカメラを送ってからは、毎週のように手紙とファックスでやりとりを続け、親交を深めていったリサと佐々木さん。互いにイラストを駆使した文通は言葉の壁を越え、心の距離が近づくにつれ、クリエイターとしての佐々木さんの本能も呼び起された。

「手紙を通じてリサの温かい人柄や旺盛な好奇心に触れ、一緒にものづくりをしたいという気持ちがふつふつと湧いてきました。本来、リサは動物の陶器作品を得意とする陶芸家で、ちょうどうちのトイカメラのモチーフがハリネズミだったことから、リサに“ハリネズミをつくってほしい”とお願いしてみたんです。

 その頃リサは75歳で、新作のオファーも少なくなっていたのでとても喜んでくれました。しかも、試作品もたくさん用意してくれて、どれもかわいくてひとつに絞れず、結果、『イギー』『ピギー』『パンキー』というハリネズミ3兄弟の作品が生まれました」(佐々木さん)

3人のものづくりがスタート

 日本限定のオリジナル陶器作品として、2007年にまず「イギー」が発売されるとたちまち話題になり、発売直後に即完売という成果を収めた。その光景に衝撃を受けたのは、当時の営業担当で、現在はトンカチの代表である勝木悠香理さん。

「日本で置物というと、誰もが気軽に買うような存在ではなく、私自身も持っていなかったのですが、リサの置物は一目惚れをして買っていく人がほとんどで目からうろこでした。そのことをリサに伝えると、陶芸家として十分なキャリアを重ねてきたリサも“自分がつくったことがないものを創作する“ということに魅力を感じてくれて、オリジナルのものづくりがスタートしました」(勝木さん)

 同時に、「リサの作品はこんなに素敵なのに、ビンテージや陶器が好きな人たちにしか知られていないのがもったいない」という思いから、リサの名作をキーホルダーにすることを提案。形や大きさなど細部にこだわって商品化されると、学生の通学カバンで揺らめくキーホルダーを目にする機会が増え、リサ・ラーソンを知らなかった若い世代にもその名を広めていった。

2024.11.23(土)
文=田辺千菊(Choki!)
撮影=深野未季、平松市聖(3ページ2枚目)
提供写真=トンカチ