この記事の連載
あしたの少女/バカ塗りの娘
私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?/燃えあがる女性...
人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした...
香港の流れ者たち/星くずの片隅で/枯れ葉
夜明けのすべて/アダマン号に乗って/コット、はじまりの夏
落下の解剖学/ビフォア・ミッドナイト/コール・ジェーン -女...
美と殺戮のすべて/アイアンクロー
システム・クラッシャー/ありふれた教室
違国日記/20センチュリー・ウーマン/オールド・フォックス ...
メイ・ディセンバー ゆれる真実/あるスキャンダルの覚え書き/...
コンセント/同意/HOW TO HAVE SEX
ナミビアの砂漠
Cloud クラウド
ヴァラエティ
クラブゼロ
エマニュエル
ノー・アザー・ランド 故郷は他にない
ケナは韓国が嫌いで
山田くんとLv999の恋をする
来し方 行く末
ラブ・イン・ザ・ビッグシティ
カーテンコールの灯
抜群におもしろい“おそろしさ”

ネット社会の闇をテーマにしたサスペンス映画のように始まった映画は、後半から、突如として姿を変え、純粋なアクション映画として進行していく。銃撃戦が始まり、人々は疾走する。おもしろいことに、ここから吉井という人物の見え方が大きく変わり始める。彼は、突然の事態に顔色を変え、驚き狼狽する。おろおろと釈明をし、恐怖の表情を浮かべ、身を守るため必死で逃げ惑う。暴力によって、それまで見えていなかった彼の感情が、否応なく引き出されていく。

暴力が発生するのが唐突であるように、人はまたたくまに暴力に慣れてしまう。一度銃を撃ってしまえば、人はあっというまにその行為に慣れ、いつしか攻守が交換していることにも気づかない。その理不尽さ、わからなさこそが人々の恐怖を駆り立てる。現代の社会に唐突に姿を現した『Cloud クラウド』は、実におそろしい映画だ。そのおそろしさが抜群におもしろい、という点も踏まえて、やはりこの映画はおそろしい。

Column
映画とわたしの「生き方」
日々激変する世界のなかで、わたしたちは今、どう生きていくのか。どんな生き方がありうるのか。映画ライターの月永理絵さんが、毎月公開される新作映画を通じて、さまざまに変化していく、わたしたちの「生き方」を見つめていきます。
2024.09.29(日)
文=月永理絵