野口 いや、マイナスですね。智亜はもともと、スピードとボルダーが得意で、リードは苦手。そもそも、スピードは瞬発系、リードは持久系というぐらい求められる筋肉の質も違うし、壁の攻略法も異なる。智亜は、スピードとボルダリングで高い点数を取り、リードの点数を補うというスタイルで世界を制してきたけど、パリではそんな戦い方が出来なくなった。
3種目をこなせる選手は世界でも少なく、これまでは智亜にアドバンテージがあった。でも、ボルダーとリードが得意な選手は珍しくない。それに2種目の合計だと僅差になるので、本当に誰が勝つか読めないですね。
ただ、東京五輪前に比べ、心は安定していると思います。東京五輪の時は、その前の世界選手権で2位に圧倒的な差をつけ金メダルを獲ったので、東京五輪でも金メダルは確実とされていた。本人も金メダルを獲りたいというのではなく、獲らなきゃいけないと考えてしまったようで、そのプレッシャーに苦しんだと言っていましたね。それで実力が発揮できずに4位に終わりました。
東京五輪後はかなり落ち込んでいました。今でも自分のキャリアで一番後悔しているとも言っていますが、ただ、パリに向けては「挑戦者なので試合が楽しみ」と。私も智亜の練習に立ち会うことが多いですが、とにかく苦手なリードを克服することに重点を置き、壁を攻めています。
野菜嫌いの楢﨑選手。「料理のやりがいはないけど…」
――トップアスリートの食事の管理も大変そうですね。
野口 彼は好き嫌いが激しいんですよ。野菜がすべてダメ。独身の頃は、鶏肉を中心としたタンパク質ばかり摂っていたみたい。でも25歳を過ぎた辺りから、トレーニングで追い込むと40度くらいの熱を出すようになった。それも年に何回も。
やっぱりビタミンやミネラル不足じゃないかと考え、色んな野菜をコールドプレスで調理し、ジュースにして飲ませるようになってからは体調を崩さなくなりましたね。
2024.08.20(火)
文=吉井 妙子