ここまでをまとめると、本書の目的は大きく三つあることになる。

(1)池上さんと私の対談を通じて、宗教の基本や最新事情を知ってもらい、ビジネスパーソンに自身のビジネス・経営へのさらに深い理解を得てもらう(宗教の理解→経営・ビジネスへの学び)

(2)「人と組織の学問」である経営理論の視点を使うことで、一般教養としての宗教をさらにわかりやすく理解してもらう(経営理論→宗教の理解)

(3)国際社会の基本OS(オペレーティング・システム)である宗教を学び、これからさらにグローバル化するビジネスやご自身の仕事への示唆を得てもらう

■池上さんとの対話だからこその成果

 本書は、池上彰さんと私が対談をしながら、そこで得た知見により、私が宗教と経営・ビジネスの共通項やポイントを各章冒頭でわかりやすく解説する、というスタイルをとっている。各章は私のかんたんな解説で始まり、そのあとに池上さんと私の具体的な対談が続く。まずは解説だけざっと読んでいただいてもいいし、あるいは池上ファンなら対談の部分だけ読んでもらっても構わないようになっている。

 このスタイルをとった理由は、本書の出版に至った経緯によるところが大きい。実は、今でこそ宗教を学ぶことの大切さを説いている私だが、かつてはその重要性をまったく認識できていなかった。汗顔の至りである。

 先にも述べたように、私はアメリカの大学院で経営学の博士号を取得し、その後もアメリカで研究を続けた経験を持っている。滞在期間は一〇年に及んだ。その意味で世界の先端の経営理論がどのようなものであるかを、徹底的に学んできた自負はある。だが、世界を見渡しても、宗教に着目した経営学の研究はほぼ皆無で、私自身、そこに重要なカギがあるとは気づけないままだった。

 宗教を意識するようになったのは、日本へ帰国して、様々なビジネスパーソンと交流するようになってからだ。さきほども書いたように、「ウチの会社は宗教みたいなものだ」と何人もの経営者から言われるうちに、「これは重要な視点なのではないか」と思い至ったのである。また、私自身も複数の企業の社外取締役やアドバイザーを務めるようになり、経営者と社員との関係に宗教との類似点がある、と実感する場面に何度も遭遇してきた。

2024.07.30(火)