本書を手に取った方の中には、表紙のタイトルを見て不思議に思った方もいるだろう。「なぜ、宗教を学べば経営がわかるのか?」と。
しかし、これこそが本書の狙いなのだ。これから述べていくように、宗教をよく理解することは、現代のビジネスや経営を考える上でとてつもない学びとなる。いや、むしろこれからは変化が激しく、不確実性の高い時代だからこそ、経営者、管理職、一般社員、起業家、すべてのビジネスパーソンにとって宗教を学ぶことが不可欠とすらいえるかもしれない。そもそも私は経営学者として以前からこの問題意識を持っていたのだが、本書で展開されるように、世界の宗教事情に精通した池上彰さんとの何度にもわたる知の交換を通じて、ますますその確信を深めた。結果、本書を池上さんと上梓することにしたのだ。したがって本書の対象読者は、まずは日本中のビジネスパーソン全員ということになる。
しかし本書をお読みいただきたいのは、ビジネス関係者だけにとどまらない。なぜなら、一般教養として宗教の理解はいまや不可欠だからだ。宗教は、我々の社会の隅々にまで影響を与えている。日本では旧統一教会の問題もあり、「宗教」という言葉に忌避感を感じる方もいるかもしれない。しかし、そもそも人は宗教的な生き物であり、何かを信じながら日々を生きている。「自分は無宗教」という方も神社に行けば手を合わせるし、結婚式は教会で挙げ、葬式で経を唱えるなど宗教的なスタイルで行う。流れ星を見たら願い事を唱えたり、大自然の中で神秘的な何かを感じる方も多いだろう。宗教の定義は「超自然的な何かを感じ、信じている」こと(※1)なので、我々は全員が、どこか宗教的な心を持っているのだ。
さらに世界を見渡すと、中東の戦争(イスラム教vs.ユダヤ教)も、ウクライナ・ロシア戦争(ウクライナ正教vs.ロシア正教)も、宗教がその根底にある。今後の不透明な世界を見渡す上でも、宗教を一般教養として理解しておく重要性はますます高まっている。
2024.07.30(火)