他方で、「理念・パーパスの浸透」が社内で行き渡らないことに悩む経営者・ビジネスパーソンが多いのも事実だ。つまり自分の企業を、いい意味で宗教化できていないのである。もしかしたら、いま本書を手に取っているあなたもそうかもしれない。だとすれば、理念が浸透したからこそ成功してきた宗教から、ビジネスパーソンが学ぶことは多いのではないだろうか。
よく考えれば、歴史上最も成功した「組織」は、キリスト教やイスラム教だと捉えることもできる。紀元前一三~前七世紀ごろに人類の最古の啓示宗教とされるゾロアスター教が現在のイラン高原に登場して以来、人類の歴史では数えきれないほどの宗教団体が生まれては消えていった。この中で一〇〇〇年以上も大きな勢力を保ち続け、今も広く市民権を得ているのがキリスト教とイスラム教だ。両宗教だけで、現代の世界の宗教人口の五六%を占める。だとすれば、自分の企業やビジネスを長く、遠くまで普及させたいと考える経営者やビジネスパーソンなら、この二大グローバル宗教のメカニズムを理解することから学べることは、間違いなく多いはずだ。
第二に、だからこそ、宗教と経営をつなぐ橋渡しとなり、宗教のメカニズムに明快な説明を与える道具として、経営理論が使えるということだ。なぜなら、経営学とはつまるところ、「人と組織が何をどう考え、どう行動するか」を社会科学的に突き詰めた学問に他ならないからだ。会社とは結局は人でできており、人の考え、信念、行動で動いている。これは宗教も同じなのだから、経営理論の視点は宗教のメカニズムの説明にうってつけなのだ。幸い、私はアメリカで経営学博士号を取り、世界の経営理論に通じた一人であり、それをわかりやすく説明できることだけには自負を持っている。だからこそ、経営理論で宗教を紐解くことが多くのみなさんの学びになる、と確信しているのだ。
■宗教は経済・社会のオペレーティング・システムになっている
2024.07.30(火)