そしてこれから述べていくように、本書は宗教に対して、私の専門である経営学の視点を使うことで、画期的かつわかりやすい説明を試みている。したがってビジネスパーソンだけでなく、一般教養として宗教を理解したい方にも、本書は「ああ、宗教はそう考えればいいのか!」という視点を提示する入門書ともなるだろう。

 このように、宗教と経営は互いに学び合えるのだ。「宗教を学べば、自分の経営・ビジネスがより深く考えられる」(宗教の理解→経営・ビジネスの理解)ようになるし、逆に「経営理論から宗教を読みとけば、宗教がよりわかりやすくなる」(経営理論→宗教の理解)のだ。この両方向の視点を提示することで、読者の皆さんに知的刺激を感じていただけるだろう、というのが本書の最大の特徴である。

■宗教は経営であり、経営は宗教である

 なぜ宗教とビジネス・経営が互いに学び合えるのかを、もう少し深く、三つの切り口で説明しよう。

 第一に、最も重要なこととして、両者は根底にあるものが「人」であり、「組織」であり、「信じることに向けての行動」という意味で、本質的にほぼ同じだからだ。先にも触れたが、宗教とは根源的に「何か(超自然的なもの)を信じている人たちが集まり、共に行動する行為・組織のこと」と言える。よく考えれば、これは現代の「理想的な民間企業」そのものである。今後はさらに社会・環境問題が顕在化し、何よりデジタル技術やAIの台頭で変化が激しく、不確実性の高い、先の見通せない時代になっていく。この時代に企業が自らを変化させながら前進するには、(それが超自然的なものでなくても)経営者や従業員が共に信じるべき目的・理念が必要だ。だからこそ、いま多くの企業で「パーパス経営」が注目されている。

 すなわち、そもそも理想的な民間企業とは「同じ経営理念・パーパスを信じている人たちが集まり、共に行動する」組織なのだ。この意味で、民間企業と宗教に本質的な差はほとんどない。実際、私の知る優れた企業には、「入山さん、外ではこういう言い方はできないけど、ウチの会社は宗教みたいなものなんだよ」と、笑いながら語る経営者が実に多い。

2024.07.30(火)