本書の単行本は、日本経済の長期低迷を脱するため、金融緩和、財政出動、成長戦略からなる経済政策アベノミクスが進められていた二〇一四年に刊行された。日本人の多くが、日経平均株価や円ドルの為替相場に一喜一憂し、再び高度経済成長期やバブル期のようになる夢を見ていた時代に、著者は、経済成長とは別のやりかたで、人間が幸福になる方法を示そうとした。著者の逝去から約六年半が経過し、アベノミクスも提唱者の急死で終焉したが、今も日本人は経済成長期の夢を捨てず、弱者を切り捨てながら欲望と競争に突き動かされている。このような時代だからこそ、まったく古びていないどころか、今こそ傾聴すべき本書のメッセージを重く受け止める必要がある。
峠しぐれ(文春文庫 ほ 36-18)
定価 880円(税込)
文藝春秋
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2024.07.18(木)
文=末國 善己(文芸評論家)