客席の隙間を狭くすれば、店のにぎわいを演出できます。空席があまり出ないほどの集客力があるなら、より「密」なつくりにしたほうが利益も出やすいわけです。
生産性が高いからこそドミナント戦略が可能に
ショッピングセンターは全国各地でつねに一定数開業しているので、出店依頼が絶えません。サイゼリヤには集客力があるので、なおさらです。
ショッピングセンターのレストラン街にサイゼリヤが入ると、ほぼ一人勝ち状態になります。もっと高い価格帯なら可能性はありますが、サイゼリヤと同じ価格帯のレストランで対抗するのは難しい。それほどサイゼリヤは強いのです。
サイゼリヤは、特定の地域に固めて出店するドミナント戦略を採用しています。店が日本全国にちらばって、商圏の規模に応じて等間隔に店を出すような出店戦略では、配送効率も悪く、調理工程の一部を工場に集約した意味も薄れてしまうからです。
特定の地域にまとめて出店すると、その分、商圏が狭くなるため、利用頻度が高くないと成り立ちません。利用頻度を高めるためには、普段使いのレストランである必要がありますし、毎日のように利用してもらうためには、価格は安くなければなりません。これらはすべて連動していて、このバランスが崩れると、ドミナント戦略はうまくいかないのです。
単価の高いレストランがドミナント戦略をとろうとして失敗するのは、値段が高くて利用頻度を上げられないからです。利用頻度が上がらなければ、自社の店同士で潰し合うカニバリゼーション(共食い)が避けられない。その場合は、商圏をもっと広くとるのが正解です。
伸び盛りの会社が必ず通過しなければならない壁
ここまで見てきたように、サイゼリヤには、ほかの会社では当たり前におこなわれている「常識」が通用しない面がたくさんありました。あれもない、これもないのに、なぜかうまくいっている。だからこその「奇跡」だったわけですが、一方で、従来のやり方を続けているだけでは、これ以上、ビジネスを大きくするのは難しい。そういうタイミングに、サイゼリヤが来ていたのも事実です。
伸び盛りの会社が必ず通過しなければならない壁に直面していたサイゼリヤが、これからも「奇跡の会社」であり続けるためには、組織の土台をしっかりと構築し、インフラを整備しなければならない。味の素にいた私にサイゼリヤから声がかかったのは、ちょうどそんなタイミングでした。
足元を固めることが、最初から私の使命だったのです。
〈バラエティ番組出演で利益が6倍に…それでも「サイゼリヤ」が“テレビ封印”を決めた“納得の理由”〉へ続く
2024.06.06(木)
文=堀埜一成