私がサイゼリヤに来た当初は、工場は埼玉の本社があるところにひとつだけという体制でした。しかも、工場と名前がついていても、やっていたのは野菜を洗うことくらいで、実態としては配送センターに近かった。

 そこで、神奈川と福島に新たに工場を立ち上げ、初の海外工場としてオーストラリアにも進出します。製造と販売を一手に担うユニクロのレストラン版を目指したのです。そうした経緯については、あとの章でくわしく説明します。

ショッピングセンターで一人勝ち状態に

 工場をつくって生産性が上がると、出店戦略でも優位に立てます。各地のショッピングセンターに出店できるようになるからです。

 テーブルレストランにとって、ショッピングセンターの最大のネックは、営業時間が短いことです。夜も比較的早い時間に建物そのものが閉まってしまうので、ディナータイムがほとんどない。これは、長時間営業してはじめて利益が出るような業態にとっては致命的です。低価格帯のレストランにとっても非常に厳しい条件ですが、それがむしろサイゼリヤのブルーオーシャンになっています。ディナーがなくても、利益が出る構造になっているからです。

 サイゼリヤの生産性が高いのには、調理工程の一部を工場に集約したことで、キッチンの面積を小さくすることができたこともひと役買っています。厨房は利益を生まないコストゾーンなので、狭いに越したことはない。浮いた面積をプロフィットゾーンである客席に充てれば、その分、儲けが出やすくなります。同じ家賃なら、キッチンが小さいほうが有利なのは言うまでもありません。

 さらに客席の配置によって、同じ面積でも、より多くのお客さまに座ってもらえるようになります。テーブルごとの設備が大きい焼肉店などでは、配置を工夫するといっても限界がありますが、イスとテーブルだけあればいいサイゼリヤには、テーブルの配置のしかたにもさまざまなノウハウがあります。

2024.06.06(木)
文=堀埜一成