日本人は「健康欲」が強いですよね

――こんなにも定期的に健康食品ブームが起こるのは、どうしてだと思われますか。

畑中 日本人は「健康欲」が強いですよね。健康になりたい、健康でありたいと思う欲求。健康欲って、強ければ強いほど自分が「非・健康」であると思えてしまうんじゃないでしょうか。毎日食べるものを意識して、吟味して、体脂肪なんかも測っては理想的な数値に近づきたくなったり、健康的な承認欲求が高まったり。

 私は食べものを入り口に社会を見ていく、ということも好きなんです。「なぜこれが、この時期にブームになったのか?」を考える。たとえば「健康と食」って、国の栄養政策とか政治経済の状況にも繋がっているものです。

――というと?

畑中 戦後しばらくの日本は「生きるために、いかにして十分な栄養を摂るか」から始まり、だんだんと「いかにして体にいい栄養を摂るか」になり、やがては食べすぎに注意して「成人病」を予防しましょう、と国の政策も時代で変わっていくわけです。最近なら「メタボに注意」とか。

――国の繁栄状況によって推奨される食べ方や食べものも変わる、と。

畑中 80年代のバブル時代だったら日本全体がグルメブームで、「健康のために食べすぎないように」とされながらも、世界各地のおいしいものを食べまくっていて。私も当時を思い返すと、流行したものを食べまくっていました(笑)。そしてバブル崩壊からだんだんと不況の時代になり、それまで海外など「外」に向かっていた世間の興味が自分の体の「内」に向かっていったように感じています。90年代後半から2000年代前半って、健康食の流行り廃りが一番激しかった時代なんですよ。今ほど規制がないこともあって、テレビ発が多かった。

――いわゆる、コンプライアンスがゆるかった。先の明治時代のラムネ粗製乱造じゃないですけれど、本書では「健康バラエティー番組の粗製乱造」が生み出してしまった捏造事件や問題点にも触れられていますね。

畑中 毎日のように健康食がテレビから生み出される。捏造やこじつけもありました。この頃は「ていねいな暮らし」なんて言葉も生まれましたが、停滞した不況時代の不安感や閉塞感が、体への「ていねいさ」をより求めさせ、健康欲がより高まっていたとも感じます。また、健康を「国民の責務」とする健康増進法が2003年に施行されたことも大きかったですね。

――体に対して「ていねい」にすることで健康を保つ、そのために健康的な「何か」を食べる、あるいはメソッドが必要になるというサイクル。健康バラエティコンテンツは今も数多くテレビで放映されていますが、どうご覧になっていますか。

畑中 相変わらずだなというか、制作側も「分かっちゃいるけどやめられない」んでしょうね(笑)。視聴者も「そういう情報にノッてみる」のが楽しいというか。そういった楽しさを否定するつもりはないんです。ただ情報を極端に信じてしまうと健康を害する可能性も高い。

2024.06.05(水)
文=白央篤司
写真=細田 忠