働く女性が母になると「世界が狭くなる」?
――どんな物事であれ、選択肢が増えて自由になればなるほど、これだというものを選ぶことは難しいですよね。
赤ん坊の頃は、最初の何時間かおきにミルク飲ませて、こうしたらよく寝る――みたいな、マニュアル通りの対応で解決できることも多かったんですけど、相手がだんだん成長していくと個性も顕著になり、誰にでも当てはまる「正解」はなさそうだぞと気付いて。誰もが親になったからといって突然正しい完璧な人間になれるわけじゃないのに、どうすればいいのって。悩んで、一時期は、私が育てるよりも、それこそ寮があるような学校に入って、教育のプロに育てていただくほうが、子どもにとっていい道がひらけるんじゃないかなと思ったこともあります。でも、最終的には開き直りに近い感じで、いま自分ができる、これがいちばんいいかなと思うことを全力でやるしかないと考えました。
当然ですが、子どもってなんの情報も持っていない。やりたいことを見つける以前にこんなことが楽しそうだとか、こんなことにも挑戦できるんだってこと自体、知らないわけで。もう少し大きくなったら自分でいろんなところで出会ったりすることもあるんでしょうけど、幼少期は周囲がどういう環境を与えるかで大きく変わると考え、レールを敷くとかフィルターをかけるとかじゃなく、可能性を広げるためにできる限りの情報は提供したい! と思いました。
――『3歳からの子育て歳時記』には、そんなふうに青木さんが試行錯誤しながら、お子さんとさまざまな体験をする様子が綴られています。
幸運にも、いろんな情報を教えてくれる先輩ママやお友達が周りにいっぱいいたんです。例えば、私はこれまでの人生でスポーツとは無縁の人間だったんですが、スキースクールって3歳ぐらいからあるんだよと聞いて、えー、だったらやってみる? って。私の興味があることだけに限ると、子どもの視野が狭くなっちゃうと思ったので、自分の興味外の情報も積極的に教えてもらうようにしていました。だから、今回の本に書いてあることは私自身、初めて子供と体験したことが多いんです。
――お子さんが生まれることで、ご自分の世界も広がった?
広がりましたね。働いていた女性が子どもを産むと世界が狭くなって、社会と関わっていないようで辛くなると聞いたこともあったのですが、私の場合はどちらかというと子どもを産んで世界が広がりました。例えば、ママ友って子供が一緒の歳というだけで年齢もバックボーンも全く違うから、これまでの人生でこんな方と接したことがないわという方とお会いすることができる。大人になると良くも悪くも自分と趣味や価値観が近い人間としか付き合わなくなるし、私がこれまで見ていた世界は実は狭かったんだなと気付かされることが多いです。
2024.05.02(木)
文=井口啓子
撮影=山元茂樹