この記事の連載

 映画ライターの月永理絵さんが、新旧の映画を通して社会を見つめる新連載。第7回となる今回のテーマは、「大きな力に抗う」。

 社会にも家庭内にも存在する「権力」。大きな力に抵抗するとき、私たちはどうするべきなのだろうか。現在公開中の映画『美と殺戮のすべて』と『アイアンクロー』(2024年4月5日公開)は、そのヒントをくれる作品です。


写真家ナン・ゴールディンの姿を追うドキュメンタリー

 日々、個人の声は政府や大会社のような巨大な権力にはとうてい届かない、と実感することばかりが続いている。ひとりひとりのあげた声は、それがどれほど切実なものであろうと、たいていは大きな声でかき消され、資本の力で踏み潰される。大多数を前には少数はどうしたって無力だ。とはいえ、選挙というシステムはもちろん、デモ活動や不買運動など、ふだん小さき声として扱われる市民の側にも、抵抗の手段は残されている。

 抵抗のための運動、というと思わず尻込みしてしまう人もいるかもしれない。でも、抵抗の手段といってもさまざまで、自分の生き方を貫くことや、身近な誰かを尊重すること、誰かの支配から逃げ出すことなど、きっといろんなかたちがあるはず。まずは「大きな力に抗う」人々を描いた映画を通して、それぞれの抵抗のありかたを学んでみたい。

 まず紹介したいのは、ローラ・ポイトラス監督の『美と殺戮のすべて』。1970年代から活躍してきたアメリカの写真家のナン・ゴールディンの姿を追ったドキュメンタリー。写真家として著名なゴールディンが、近年、アメリカで社会問題となっている「オピオイド危機」に声をあげ、巨大な資本を相手に戦ってきたことを、私はこの映画で初めて知った。

2024.03.31(日)
文=月永理絵