「傷つけたくない」加害を自覚する『おっパン』

 一方、原田泰造主演の『おっパン』は、古い価値観にとらわれていた主人公が、自分のこれまでの行いを自省し、アップデートしていく様を描くロールプレイングストーリー。今までは昭和の価値観しか知らなかったけど、時代は変わっていてこのままでは通用しない、取り残される。そんな”おっさん”が感じる悲哀や危機感までも丁寧に描いています。

 放送枠はもともと大人のためにおくる本格派ドラマシリーズとして作られた土ドラ。観てほしいターゲットも明確で、大人たちにちゃんとアップデートしてほしいと願っている誠実な制作意図が感じられます。

 主人公・沖田誠がアップデートする理由の根底にあるのが、愛する家族や部下のことを理解したいし、傷つけたくないという思い。「傷つけたくない」という感情が生まれたのは、自分の加害性を意識した証拠です。今まで自らの加害性に無自覚で生きてこれたことこそ「特権」で、そのせいで傷ついてきた人たちは確実にいる。それに気づけただけでも進歩でしょう。

 ドラマではホモソーシャルな社会やトキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)をあぶり出す展開。時に主人公は、成長の過程でアウティング(本人から了承を得ずに、性的指向や性自認を第三者が公に暴露すること)などの間違いを犯しますが、それを人間性の問題にはせず、「知識がなかったせい」だと伝えているところもミソでしょう。つまり、どんな人でも、知識を得ることで変われると示しているのです。

 また、加害の理解だけでなく、被害の理解も重要。今までマイクロアグレッション(無意識の偏見や差別によって、悪意なく誰かを傷つけること)などの被害を受けても、それが自分のせいだと思いこんでいた人たちは多いのではないでしょうか。自分は悪くないという気づきを与えることで、言語化できていなかった感情、モヤッとしたものが明快になるのです。

2024.03.22(金)
文=綿貫大介