パワハラやセクハラはNG! そんな認識は今は当たり前。一昔前はそれが普通に横行していたなんて、本当に時代が変わってよかったと思います。でも、まだ今の価値観に適応できていない大人はいるもので……。
そんな大人(主にマジョリティ男性)の加害性にスポットを当てた作品が今クールで2作品放送されました。一つは『不適切にもほどがある!』(以下『ふてほど』)(TBS系)、もう一つは『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(以下『おっパン』)(東海テレビ・フジテレビ系)。
それぞれの作品で描かれるのは、時代の変化や世代間のギャップ。ただ、描く視点やメッセージ性に大きく差があると思います。今がどんな時代で、私たちはどう適応すればいいのか。編集者・ライターの綿貫大介さんが、その答えを探ります。
昭和と令和の価値観を極論でぶつけ合う『ふてほど』
まさか阪神・淡路大震災で亡くなる未来が決まっていたとは。宮藤官九郎の巧妙な脚本で回を重ねるごとに話題を集める『ふてほど』。本作はザ・昭和のダメ親父の中学教師・小川市郎(阿部サダヲを)が今の時代にタイムスリップし、「不適切」発言で令和の停滞した空気をかき回すストーリー。公式によると、「市郎の極論が、コンプラで縛られた令和の人々に考えるキッカケを与えていく」とのこと。
「コンプラに縛られた」という表現からは、コンプラを100%いいものとは思っていない制作陣の姿勢が出ています。まぁ表現を生業にしている人が、映像界のコンプラ重視に疑問を抱くのはわからなくもない。だってテレビドラマにコンプラがふりかざされると、逃走犯はシートベルトをきちんと締め、不良高校生たちもタバコや酒をやらないというある意味“架空の世界”しか描けなくなりますから。
そのルールのせいで作品としてのクオリティがぼやけてしまう状況は、つくり手や役者からしたら嘆かざるを得ないことでしょう(もちろん映像化においても、時代のルールで面白いものを作る、規制があるからこそ新たな面白さが生まれると信じたいけど)。
宮藤官九郎脚本の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』では、阿部サダヲが愛煙家の田畑政治を演じたとき、複数人いる車内や食事中に喫煙するシーンが放送されました。当時の時代背景を鑑みると当然の演出なのですが、現代からすると昭和にはなかった副流煙問題が。「受動喫煙を世間に容認させることにもなる」と「受動喫煙撲滅機構」からNHKに抗議が入ったのです。
今回もあえて昭和でバンバン喫煙シーンを入れているのは、時代に即した作品づくりをしたいという制作陣の抵抗でもあったのではないでしょうか。そのためドラマの喫煙シーンには「出演者・スタッフの健康に配慮」とのテロップが入っています(5話では在宅酸素療法をしている患者の近くで煙草に火をつけるシーンもあったが、酸素吸入中の火気の使用は厳禁!)。
ものづくりに対する誠実な姿勢はわかります。ただ、そのためにハラスメントなど当たり前に守るべき法令遵守の姿勢、価値観をわざわざ否定する必要はありません。私たちはむしろコンプラにしっかり「縛られる」べきだと思います。
2024.03.22(金)
文=綿貫大介