2通りの料理法で供される鶏の味わいに感激
セバスチャン あと、“ブレス産肥育鶏のベッシー包み”にも感激したよ。
アヤ 豚の膀胱(ベッシー)を風船のように膨らませて、その中に鶏を入れて火を通すというクラシック料理。エリックのスペシャリテでもあるのよね。
セバスチャン その鶏は2回に分けてサービスされるんだな。1回目のサービスの料理は、ブルジョワ料理といったらいいか。鶏のささみを切り落として、それに黄ワイン風味のソース、ザリガニ、マッシュルーム、野菜が添えられる。2回目のサービスでは、ソリレス(家禽類の腰骨の付け根にある肉)と、残ったガラで作られるブイヨンスープ。ジャガイモとポロ葱の甘味もにじみ出ていた。そして上にトリュフを散りばめてくれる。日曜日の心和む食事といったらいいか、優しさと温かさのハーモニーがあって、幸せに包まれた。僕はどちらかというとこの2回目のサービスのブイヨンに心を打たれたよ。
アヤ ブリストルの料理長に任命される前には、パリ19区に「ラ・ヴェイエール」というビストロをオープンしていたのを覚えてる?
セバスチャン ああ。クリスチャン・コンスタンの下でM.O.F.(フランス最高職人章)を獲得してその2年後にビストロをオープンした。そしてブリストルの料理長になった。
アヤ エリックは、どこにいても、求める料理の真髄の変わらない人だということに感心するわ。
セバスチャン しかし、M.O.F.ならではの、きちんとした技術に基づいた料理の真理を追求している人間だ。それに才能ある人間にも恵まれているね。シェフ・パティシエのローラン・ジャナンも優れた腕の持ち主と感じた。
アヤ 彼もクリスチャン・コンスタンの下で働いていたパティシエの一人よ。私の頼んだチョコレートとブラックベリーの組み合わせは素晴らしかった。カカオの風味と野性味あふれる上質な挑戦で。
セバスチャン テーブルアートも含めて、すべてに調和がとれた、本物のリュクス。サービスの心配りも実に心地よい。
僕は、コペンハーゲンの「ノマ」など、エクストリームな食事をするのも喜びとしているけれど、こうしたしっかりしたフランス料理をいただくのが、本当の喜びだと感じる。
アヤ フランス料理の静かな力を感じるわ。
伊藤文 (いとうあや)
パリ在住食ジャーナリスト・翻訳家。立教大学卒業。ル・コルドン・ブルー パリ校で製菓を学んだ後、フランスにて食文化を中心に据えた取材を重ねる。訳書にジョエル・ロブション著『ロブション自伝』、グリモ・ド・ラ・レニエール著『招客必携』、フランソワ・シモン著『パリのお馬鹿な大喰らい』(いずれも中央公論新社)、著書に『パリを自転車で走ろう』(グラフィック社)など。食に関わるさまざまなジャンルの人々を日仏で繋ぐ、バイリンガルのウェブマガジン「食会」主宰。
食会 http://shoku-e.com/
セバスチャン・リパリ
料理コラムニスト、コンサルタント。国際的なガストロノミー会社「Food & Beverage」 のコンサルタントを15年務めた後、「Bureau d'Etude Gastronomique」を設立。アラン・デュカス出版の編集やCanal+料理番組のコンサルタント、多くのイベントのディレクターを務める。名シェフ、ティエリー・マルクスが会長を務めるアソシエーション「Street Food en Mouvement」の創始者で副会長。
Bureau d'Etude Gastronomique http://www.lebureaudetude.com/
Column
アヤ&セバスチャン パリ、男と女のフレンチ語り
滞仏20年の料理ジャーナリスト/翻訳家、伊藤文。錚々たるシェフたちからの信頼を得る料理コラムニスト/コンサルタント、セバスチャン・リパリ。花の都の美食に通じたふたりの男女が、いま訪れるべき最高のレストランについて縦横無尽に語り合う。ここに、フランス料理の真髄がある。
2014.02.19(水)