公演が終わった瞬間、「やり切った」と明確に思えたのは、“解散宣告”から3年半、自分の感情から逃げることなく、向き合い続けたからだと思っています。

――モモコさんが悩んだり苦しんだりする等身大の姿は、BiSHを知らない人が読んでも共感でき、勇気付けられると思います。

モモコ 私は一見、ステージというきらきらした場所にいて、ファンもいて、好きなことを仕事にしていて、悩みなんてないように見えるかもしれません。でも、全くそんなことはないんです。ずっと怖がっているし、解散後だって不安を感じています。今の時代、“安定”なんてどこにもないし、これからどうしたらいいのか、誰も教えてくれないですよね。立派に見える大人だって、私のように自分の仕事や将来のことに迷っているのかもしれない。そんな不安を抱えている人々の気持ちに、この作品が少しでも寄り添うことができたらいいなと思っています。

 

小説を書けなかったら表舞台に立たない

――BiSHの活動をしながら『解散ノート』を書いて、さらに小説『悪魔のコーラス』を解散直後の2023年7月に刊行されています。第1作『御伽の国のみくる』とは一味違う小説です。

モモコ 『御伽の国のみくる』は、アイドルの夢破れ、メイド喫茶でバイトを続ける女の子が主人公でした。プロットという言葉も知らず、とにかく勢いのまま書きたいことを書いて出来た作品です。設定を見て「アイドルだから書けたんでしょ」と思う読者もいるだろうと感じていたので、第2作では雰囲気の違う作品を書いてやろうと強い気持ちで挑みました。

 私はBiSHに入りたての頃から、「自分には何があるんだろう」と自問し続けてきました。他のメンバーは歌唱力があったり、表舞台に立つ経験を積んでいる子ばかりだったので、私には何もないなって毎日のように感じていて。でも、歌詞を褒められることが増えてきて、それがものすごく嬉しくて、「書くこと」で少しずつ自信をつけていきました。ただ、「書く人」を名乗るならば、絶対に小説を書かなくちゃという、強迫観念のようなものがあって。なので、解散直後に小説を発表することは、私にとってとても大事なことだったんです。「解散までに小説を書けなかったら、もう表舞台には立たない」という覚悟で向き合っていました。ずっとピストルをこめかみに突き付けられているような気持ちでしたね。

2024.03.13(水)
文=「別冊文藝春秋」編集部