でも、急に指が止まってしまって書けなくなった時期もありました。「いいものを書かなきゃ」とか、「ファンがいるから書くことを許されているだけなんじゃないか」とか考えてしまって。私にとって、キーボード上の指先は自意識の塊なんですよね。

――『悪魔のコーラス』の帯には、窪美澄(くぼみすみ)さんからのコメントが寄せられていますね。

モモコ もともと窪美澄さんの小説が大好きだったので、帯文をお願いしたいと思って、手紙を書いたんです。そしたら、とても嬉しいお返事を頂けて。書いてもいいんだよ、と背中を押されたような気がしました。

 書きたいこと、まだまだたくさんあります。書きたいことが溢れ出してしまって、全てをひとつの作品に入れがちなんですよね。良い作品にするためには、きちんと削ることも課題のひとつだと思っています。

 私は村上春樹(むらかみはるき)さんの作品が大好きで、憧れるあまり、第1作の初稿はつらつらと長い文章が多かったんです。そうしたら、編集者さんから「トル」ってばっさり指摘が入って(笑)。めっちゃ頑張ったところなのに! と最初は少し落ち込みましたが、今はどうしたら贅肉(ぜいにく)のない文章を書けるか模索しています。

 私自身が色々な小説に救われてきたので、一筋の光が見えるような作品を書いていきたいですね。

――BiSHの頃も、今も、常にどこかに向かって大変な努力を重ねられています。その原動力はどこからくるのでしょうか。

モモコ BiSHに入りたての頃、私は歌もダンスも本当に下手だったんです。リハのあと、私一人だけがステージに残されて、メンバーやスタッフさんからお説教をされることもありました。テレビ出演のとき、私だけ歌のパートがなくて、声の入らないマイクを持ってステージに立ったこともあります。

 そんなときは辛くて、ふがいなくて、泣きそうになったけれど、実際にできていないのだから、指摘を受けるのは当たり前のことだとも思っていました。そこでただ泣くのは逃げだと思ったし、泣きたくなるということは、私は悔しいんだな、それならまだ頑張れるじゃん、と思ってがむしゃらに走ってきました。頑張っている自分のことは、信用できるんですよ。これからも、自分の色や感情をしっかり見つめながら歩んでいきたいと思っています。

撮影:榎本麻美
スタイリング:大瀧彩乃
ヘアメイク:澤西由美花

《プロフィール》

モモコグミカンパニー/2015年、“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーとして活動を開始。16年にメジャーデビューを果たすと、大ヒット曲を連発して各メディアで活躍を続ける。18年にエッセイ集『目を合わせるということ』、20年に『きみが夢にでてきたよ』を刊行。22年、『御伽の国のみくる』で小説家デビュー。23年のBiSH解散とともに作家活動を本格化させ、同年『悪魔のコーラス』を刊行。24年2月に解散までの記録を書いた『解散ノート』上梓。

解散ノート

定価 1,760円(税込)
文藝春秋
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2024.03.13(水)
文=「別冊文藝春秋」編集部