「素敵と良いとは違うこと」
――「すごく好きな相手でなくても助ける」というのはとても良いですね。私の北極星にしなくては。
ジェイク アメリカの偉大な作詞作曲家のスティーブン・ソンドハイムが「素敵と良いとは違うこと」*という歌詞を書いているんです。(*Nice is different than good. ミュージカル「イントゥ・ザ・ウッズ」の中に出てくる一節)。これはさまざまな意味で、とても興味深いコンセプトだと思うんですよ。人は試練に対峙した時、最高の自分が試される。ジョンもそうです。アーメッドを助け出すまでは、ジョン自身も人生を思い切り生きることが出来ない。まるで釣り上げられたかのように戦場に戻る。
「釣り針が引っかかってるんだ」というセリフが僕はとても好きなんですが、ジョンの心に刺さった釣り針を外すには、アーメッドの命を助けるより方法はないんですね。だからどんなに困難な状況でも彼は戦って、戦って、戦い続ける。矛盾を孕んでいるところが人間的であるし、それこそがガイ・リッチーが監督として特別なところであり、僕が人間としてのガイに惚れ込む理由なんです。
――現場では、かなり即興やアドリブを求められたと聞きました。
ジェイク 即興やアドリブというよりは、その場で書いたセリフを渡され、すぐに撮っていったという感じです。今回長いスピーチが二つあるんですが、これは脚本には元々は書かれてなくて、実はその場でガイが書いたセリフなんです。その場ですぐに覚えて演じなければいけないから大変だけれども、僕はこれがとても面白かったし、ガイ・リッチーらしさだと思います。
このやり方ができるのは、映画言語が流暢な作り手だから。そしてガイのスタッフはいつも一緒だから、彼のやり方を理解しているし、どう動けばいいのかもわかっている。信頼関係があるんです。僕は彼のチームの一員になったばかりだけど、ガイに言われたらなんでもやりますよ。実際、ガイとはもう2本目も撮ったんです。
――アーメッド役はダール・サリムさんです。日本ではまだ馴染みの薄い俳優ですが、とても素晴らしい役者さんですね。
ジェイク 僕は本当にダールのことが大好きなんです。彼は本物の紳士ですよ。とても寛大で、一緒にいると愛さずにはいられないタイプの人です。心がオープンで、とても謙虚で、努力家です。そういう役者と一緒に仕事をすると、こちらも100パーセントの力で返さなければ、と思わされる。ダールは本当に最高の人間であり、一緒に仕事をするのが楽しくて仕方ありませんでした。
――ジェイクさんが完成したこの映画を自分で観て泣いてしまった、という海外メディアのインタビュー記事を読みました。何かを思い出して涙が出たのでしょうか? もしくは、どこかの場面で胸を打たれたのでしょうか?
ジェイク 実は涙が出たところは何回かありました。戦闘シーンでも感情が動かされたし、最後は安堵感を覚えて泣けてしまった。自分のことを気にせず人のために動くとき、そこに人間的なものを感じるし、泣けるんだと思うんです。みんな日々選択を迫られている中で、人と人が無私の気持ちで繋がることができるという可能性、それが素晴らしいことだと思うんです。人間はお互いを滅ぼすだけではないんだ、ということを示している。
さらに、親友だと思っているガイ・リッチーが今までとは違う映画を作ったことに感動して、涙が溢れてしまった。こんな素晴らしい映画を生み出したガイを誇りに思うし、とにかく最後に色々な思いが込み上げてしまったんですね。
2024.03.05(火)
文=石津文子