この記事の連載
岸田奈美さん[作家]
Q1:夜ふかしマンガ大賞に推薦する作品は?
●『藤子・F・不二雄SF短編コンプリート・ワークス』藤子・F・不二雄/小学館
1969年発表の『ミノタウロスの皿』を皮切りに、藤子・F・不二雄の111作品が描き継がれた「SF短編シリーズ」。子ども向けの作風をガラッと変え、ほろ苦かったり救いがなかったりとオチは大人向け。装いと巻立ても新たに再編集してB5サイズで刊行。
「夜中にサクッと読みたくなる短さと、布団にもぐってからもしばらく考えこんでしまうような不気味さがちょうどいい。あと、紙の手ざわりの気持ちよさがほんとに素晴らしい」
Q2:人生で影響を受けたマンガは?
●『島耕作シリーズ』弘兼憲史/講談社
シリーズ第1作『課長 島耕作』が描かれた時代は好景気。主人公のサラリーマン、島がいかにして社長まで上り詰めたのか? 日本の大企業で働く男たちを描く一大叙事詩。
「亡き父の遺品。7歳のときから隠れて読み、大企業でしたたかに生きる一匹狼に憧れてしまったので、友人がまるで作れなくなった。だけど、だからこそインターネットの海に身を投じ、感想を語り合うために躍起になった経験が生まれ、息を吐くように発信するクセがついて作家になったんだと思う」
Q3:夜ふかしマンガの楽しみ方は?
「南部鉄器で水を沸かして甘くして、白方伝四郎商店のうまいお茶を入れる。いいところでいったん止めて、お茶を沸かしにいく間の、先を予想するドキドキが好き」
Q4:いま、特に注目している作品は?
●『リエゾン-こどものこころ診療所-』原作:竹村優作、作画:ヨンチャン/講談社
「弟のことを発信しはじめると、知的障害や発達障害のある子どもを持つご家族からの相談を受けることが増えた。なにも言えなかったけど、リエゾンを読むと『こういうことだったのか』といつも衝撃を受け、自分が語っていく糧にできる」
●『フラジャイル』原作:草水敏、作画:恵三朗/講談社
「生きていれば誰でも病気になるし、誰かの死に向き合う。疲れ果てていっぱいいっぱいな夜に、言葉にできなかった言葉、かけてもらいたかった言葉を、“フラジャイル”のいっぱいいっぱいになりながらも必死に生き抜いているキャラクターたちが教えてくれるから」
●『波よ聞いてくれ』沙村広明/講談社
「深夜にひとりぼっちでいるどうしようもない人間にこそ、語りかけてくれるのがラジオである。ダメ人間なのにムチャクチャな行動力の持ち主・鼓田ミナレの話術に引きずり込まれていくのが気持ちいい」
Q5:いま、読み返したい名作は?
●『NANA』矢沢あい/集英社
「平成生まれが集まると、ぜんぜん仲良くなくても『NANA』の話題を出すと、2時間ぐらい語れるのがいい。昔はタクミのよさがまったくわからなかったけど、30歳を越えたいまだからこそ輝いて見える、タクミの甲斐性……。恋愛マンガだけじゃなくて、家族マンガの深みも見えてくる」
Q6:とにかく泣きたい夜におすすめの作品は?
●『空也上人がいた』新井英樹/小学館
「生々しさがあって、万人にはおすすめできないけど、『とんでもないものを読んでしまった』としばらく打ちのめされながら泣いてしまった作品。仏像を初めて見た人ってこういう気持ちになるんだと思う」
Q7:期待の新人作家とその作品は?
●『住みにごり』たかたけし/小学館
「ファミリーものなのになんとも言えない不気味さと、嫌いになれないキャラの描き方。これ、どうなるのか本当にわからなくて、目が離せない」
Q8:深夜、ひとりでコッソリ読みたい作品は?
●『ハコヅメ』泰三子/講談社
「とにかく面白くて、心おきなくひとりで爆笑できる。ひとしきり笑ったあとに、隠れた伏線やキャラクターの感情に気づきたくて、2周する」
岸田奈美(きしだ・なみ)さん
作家
WEBサイト「キナリ」主宰。近著に『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった+かきたし』(小学館文庫)。
CREA夜ふかしマンガ大賞2023
2024.01.21(日)
文=大嶋律子(Giraffe)
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