心理カウンセラー・中元日芽香さん(元乃木坂46)によるカウンセリング・エッセイ『なんでも聴くよ。中元日芽香のお悩みカウンセリングルーム』(文藝春秋)より、Q&Aを抜粋してご紹介します!
》『「人間は完璧ではないことを心から理解できるようになりました」中元日芽香が適応障害から学んだこと』はこちら
Q. 他者の評価にとらわれないためには
●相談者からのお悩み
誰かが褒められていると、自分には何も言及されていないのに、比べられて劣っていると言われたような気持ちになってしまいます。例えば、研究室の同期や部活の友達などが先生や先輩から褒められているとそう感じてしまいます。
相手がそんな意図で言っているわけではないとわかっていますし、自分の考えが卑屈だとも思います。しかし、褒められている人のことを嫌いになったりして、そんな自分が嫌になってしまいます。
他者の評価にとらわれないためにはどうしたら良いでしょうか。(うなぎ・22歳・女性)
●中元さんからのアドバイス
他者の評価にとらわれないようにするためには、自分の軸を持つこと。自分に自信を持つこと。他人と比べないようにすること。などと言われたりしますが、それができたら悩んでないですよね。程度の差はあれ、他者の評価が全く気にならないなんて人の方が珍しいくらいです。
まず、うなぎさんはうなぎさんであって、他人は他人です。この線引きはめちゃくちゃ大事です。うなぎさんは、他人にあって自分にないものを見つけるのがお上手なのだと思います。そしてうらやんでしまう。ここまで、うなぎさんは何も悪くないです。研究や部活に一生懸命だからこそ評価されたいし、あの人は褒められていいなって思ってしまうのですよね。
私は高校生の時、全然勉強に力を入れていませんでした。だから成績が振るわないのは当然だし、周りの同級生を妬む気持ちも生まれませんでした。うなぎさんの今のモヤモヤは、一つ一つに真剣に向き合い頑張っているからこその感情です。それだけ真剣に頑張れていること自体が素晴らしいです。
次に、褒められた人を嫌いになってしまう、そんな自分が嫌になると。人って実にいろんな感情を持っています。妬み、恨み、執着、打算、歪いびつな愛情……。相手のそういった感情に触れるたびに私は、「人間らしいな」って安心します。自分の中から自然に湧いてくる感情が「正直あの人嫌い」なら、それをそのまま受容してあげてほしいし、そんなことを思う自分を否定する必要はないのです。
研究室の同期も、部活の仲間も、うなぎさんとは元々持っている才能も目指す先も違います。その分野で優秀な人と一緒に取り組むと、優秀な人は一歩先を走っているようで、自分の取り組みに自信がなくなります。それでも、他者の評価にとらわれないようにするために「期限の中でどれだけ自分が頑張れたか」に注目してみてはどうでしょうか。周りが褒められていたって自分には関係ないし、自分が劣っていると解釈する必要もないのです。
そうだ。こんな時、心理カウンセラーの心がけが役に立つかもしれないので共有します。心理カウンセラーは話を聞く時、事実と主観(相談者さんの思い込み)を分けて、「事実だけを見極める」よう意識します。
例えば、「上司から私だけよく怒られるから、上司は私のことを嫌いに違いない。実際仕事はできていない。最近は職場に行くことを考えると不安で夜に眠れなくなる」と相談者Aさんが言ったとします。
この時、客観的事実は「Aさんは不眠症状を訴えている」です。それ以外はもう少し質問をして、事実を確認する必要があります。
上司は本当にAさんだけを集中攻撃しているのか? 上司の個人的な感情で怒っているのか、それとも指導のために怒っているのか? 怒っているとは具体的にどのような様子なのか? 仕事ができていないというが、会社にとって大きな損失を出したということなのか? 職場の人間関係が不安なのか、それとも業務内容が自分にとって苦痛なのか? 不眠につながるストレス因でほかに思い当たることはないか? これらを矢継ぎ早に質問するわけではありませんが、心理カウンセラーの頭の中はこんな感じ。事実と主観を分けて考えるようにします。
うなぎさんが他者の評価にとらわれないようにするための方法を、上記の考え方を用いて2つ提案させてください。
1つ目。自分と他人は別人格。比べる必要はないと割り切る。自分自身がレベルアップすることに集中する。
2つ目。事実に目を向ける。自分に自信がなくなってくる思い込みは手放してみる。
私は、うなぎさんがそんなにも自分を劣っていると感じてしまう背景に何があるのかが少し気になりました。褒められることへの飢えがほかの人より強いのかな。負けず嫌いさんなのかな。
2023.12.20(水)
文=中元日芽香
写真=榎本麻美
スタイリング=岡安幸代
ヘアメイク=宇藤梨沙